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「ったく、こんなことになるなら、やめときゃよかった」
何年か前、和穂がサッカークラブに入りたいと言い出した時、反対する母さんを説得したのは僕だった。
僕は、「サッカーがしたい」という和穂の想いを純粋に応援したかっただけなのに。
わけのわからない男にほだされるくらいなら、あの時母さんと一緒に反対しておくべきだった。
ミルクティーでも飲もうと立ち上がったところで、ダイニングテーブルの上に白い紙袋があることに気づいた。
「これって、もしかして」
左手で紙袋を引き寄せて中を覗く。きらびやかな水色のギフトバッグが目に入った。やっぱり、そうだ。
和穂のやつ、たしか、今日例の男に誕生日プレゼント渡すって言ってたはず。
家を出る直前までバタバタ準備していたことだし、うっかり忘れていったんだろう。
まったくもう、抜けてるんだから。
ため息をつきながら和穂のスマホに電話をかけると。
ブー、ブー。
ダイニングテーブルの上から鈍い音。
ピンクのケースをまとったスマホの画面に、【着信 お兄ちゃん(状態:いじわる)】という文字が表示されている。
なんとスマホも忘れていったらしい。
「困ったやつだな、ほんと」
どうしたものか。
行き先は聞いている。
電車に乗るはずだから、駅まで届けてやればいい。
幸い、和穂が出発してからまだ全然時間は経っていない。
駅まで徒歩で約20分かかるうちの立地が、珍しく役に立ちそうだ。
今から追いかければ十分間に合うだろう。
気が進まないながら立ち上がった、その時だった。
『ほんとうに届けていいのですか?』
どこからともなく、不気味な声が聞こえてきた。
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