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裏庭の縁側で昼寝していると、何やらへんてこな声が聞こえてきて目を覚ました。
うるさいので再度眠りにつくこともできない。文句を言ってやろうと体を起こすと、目の前に不思議な生き物がうごめいていた。
「あー、忙しい忙しい。間に合わないかもです、ますです。お使いを頼まれているのに、このままでは間に合いませんかもですです、はい」
右手に包まれた懐中時計を見つめながら、早口でそんなことを口走っているのは、執事のような礼服を身にまとった兎だった。二本足歩行で、急いでいると言うわりには、行ったり来たりしてどこへも行こうとしない。まるで私を待っているかのようだった。
「何がそんなに忙しいの?」
声をかけた瞬間、兎は行ったり来たりの往復を止めていきなり駆け出していた。
起きたばかりで体は重い。どうしようかなあ、と兎の行く先を見つめていると、ちょうど裏の林の入口手前辺りで、また行ったり来たりを繰り返していた。
はぁ〜と大きなため息をつくと、のそのそと重い体を起こし、兎を追いかけることにした。それほどの興味はなかったが、わざわざ待ってくれているようなので仕方ない。
私が歩き始めると、兎はちらっとこちらを見てから林の中へと駆け出した。林の中に入ると、目の前にある大きな木の根っ子の穴に兎は飛び込んだ。兎がやっと入れるくらいの大きさだったので、あきらめて帰ろうと思ったが、振り返るとそこに道はなく、私は林のど真ん中に佇んでいた。
「嘘でしょ……」
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