01. 戦場カメラマン

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01. 戦場カメラマン

 雄介は戦場に足を踏み入れていた。とある小さな島国で戦争が勃発したというニュースが耳に飛び込んできて、居ても立っても居られなくなったのだ。  長年愛用していた一眼レフカメラで撮った写真を、知り合いの出版社に売るか個展を開くか、ということも考えていた。だが、そのような曖昧な目的で戦地に赴くならば、雄介は伊達に10年以上もカメラを持ってあちらこちらを走り回っていない。  雄介が向かった島国では、侵略国の軍隊と現地のそれとが各々の武器をもって激しく撃ち合っていた。現地の軍隊は少数の精鋭部隊に加え、半分以上が民間出身の義勇兵だった。その上、世界の軍事大国の一つである侵略国と比較して、その島の兵士の人数や武器や弾薬の量などは相手国の半分以下しかなかった。雄介は侵略軍の勝利も時間の問題だと思ったが、圧倒的な軍事力を前にして島国の軍隊や民間人たちは諦めず、必死に抵抗した。  実際に、現地軍側の犠牲者数は日に日に増加していた。中には年端のゆかぬ子供もいた。島国のセンター街で侵略軍の兇弾に倒れる人々を目の当たりにした時、雄介は強烈な恐怖感に呑まれた。  しかし、彼には自国にこの国で起こった戦争の現実を持ち帰って、伝えなければならないという使命があった。その感情が恐怖に打ち勝ち、敵国のミサイルによって身体の一部が吹き飛んだ死体、血塗れの包帯に身を包んだ女子供たち、大切な人の死体に縋って泣き叫ぶ人々。  これら悲劇の数々は、雄介のカメラに収められた。街の建造物を焼くために笑顔でオイルを撒き散らしている侵略軍の兵士の姿も撮影した。雄介はカメラでそれを確認するたびに、胸がむかむかとして唾を吐きかけたくなった。
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