02. 突然の死

1/1
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ

02. 突然の死

 島国に到着してから、毎日人間の死を目の当たりにするうちに気が狂って、路上に吐瀉物を打ちまけるのではないかと思っていた。  その一方で、雄介は心のどこかで「自分はきっと死なないだろう」という意味のわからない自信を感じていた。  そのような奇妙な自信も、ある日突然打ち砕かれることとなった。雄介の胸を流れ弾が貫いたのだ。  戦場カメラマンである雄介は現地軍の協力を得て撮影を行なっていた。そんな雄介には、現地軍から事前に防弾チョッキが渡されていた。しかし、長引く戦争で現地軍側の軍事物資も不足し、今回は防弾チョッキが渡されなかったのだ。今まで至近距離で撮影をしていた雄介は、今回は仕方なく戦場から離れた場所で撮影することにした。 侵略軍も現地軍も相手方を狙って発砲していた。離れた場所にいる雄介の方に銃弾が飛んでこない保証はないにしろ、自分には当たらないだろうと油断していたのだった。  雄介は今頃になって、カメラマンである己の未熟さを情けなく思った。銃弾は胸部を貫き、肺を撃ち抜いたのだろう。呼吸が苦しかった。雄介は背中と地面の間に熱いものが流れて、色褪せたTシャツに染みを作っていくのを感じた。  今日は晴天だった。太陽が沈むのが遅いこの国では、日差しがとても強い。刺すように痛い日の光に雄介は目を細める。  眩い日の光にいくつもの情景が映し出される。小さなカメラを持って、森の中を駆け回る幼い自分がいる。写真部として他の部活動の集合写真を撮影する自分もいる。将来のことで両親と揉める自分も、カメラマンになりたい夢を諦めきれず葛藤する自分も。そして、両親が寝ている間に一人でこっそり家を抜け出していく自分も。  これが走馬灯か、と雄介は力なく笑った。今になって思えば、両親の話もちゃんと聞くべきだったかもしれない。カメラマンとは言え、それほど儲かるはずもなく、家賃の滞納や生活費の工面に苦しむ毎日だった。  それでも、好きなことに熱く打ち込めた人生は本当に楽しかった。売れなかったけど、悪くない人生だった。  雄介はゆっくりと瞼を閉じていった。  辺りが急に暗くなった。周りの喧騒も、暑く湿った風も、ぴたりと止んだ。  朦朧とした意識のまま一度閉じかけた両目を見開くと、金色の丸い双眸と目が合った。  雄介は身体全体がふわりと宙に浮いたような感覚を覚えた。きっと霊体離脱だ。自分は死んだんだ、と雄介は薄れゆく意識の中で悟った。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!