05. 再び戦場へ

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05. 再び戦場へ

 すると、雄介の右足のつま先にボールのようなものが当たった。それは洞窟の入口の方まで軽快に転がっていった。洞窟に差した日の光に照らされたそれはーー人間の頭蓋骨だった。  「うわあぁーーーーーーっ」  雄介はけたたましい悲鳴を上げ、一目散に駆け出した。  そして、彼は洞窟から2キロメートルほど離れた森に辿り着いた。走り続けて疲れた両足を休めるために岩陰に座り込んだ。時々外の様子を覗いて、あの化け物が追いかけてきていないかどうかを確認する。まだ来ていないのを確かめると、逃走している間でガチガチに固まっていた筋肉全てが一気に脱力していくような気がした。両足の痛みが取れたら、ここを離れて遠くへ逃げよう。雄介は自分のふくらはぎをさすりながらそう思った。  突然どこかで爆発音が鳴った。雄介は驚いてその方角を確かめようと、キョロキョロと周囲を見回した。次には機関銃を連射する音が響き渡った。近くが戦場になっている。  防弾チョッキを身につけていない雄介は自らの生命の安否を心配した。同時に、不謹慎ながらも小さな安堵感を覚えてしまった。  「俺、まだ生きてるんだなあ」  ようやく生死の状態を確認することができた。自分は幽霊でもゾンビでも何でもないのだ。  雄介が安堵を感じて徐に天を仰ぐと、爛々と炎を燃やす金色の双眸と目が合った。荒く鼻息を立てるそれは、大きく長い舌でべろりと舌なめずりをした。  数秒間、雄介は身体の動きを停止させた後、さらに大きな悲鳴を上げて逃げ出した。  森の茂みを抜けると、雄介は広い原っぱに出た。そこで、目の前の光景に驚愕し立ち止まった。  十数人の現地軍の兵士たちを中心に、侵略軍の兵士と戦車が取り囲んでいる。現地軍の兵士たちは皆縄で拘束されている。ある者は俯き、またある者は目に涙を浮かべている。侵略軍の兵士たちはいやらしい笑みを浮かべながら、彼らに透明な液体を上からぶちまけたーーガソリンだ。侵略軍の兵士の一人がライターを持って彼らに近づいた。  それを見た雄介の全身の血液が熱く燃え上がった。化け物に追われていることなどすっかり忘れてしまったのだろうか。今は恐怖よりも、とてつもなく大きな怒りが雄介の心を支配した。 「やめろおぉっ」
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