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07. 絶体絶命
その瞬間、雄介の下腹部を2発の銃弾が貫いた。熱を伴った鋭い痛みに悲鳴を上げる。倒れる瞬間、地面に這いつくばって拳銃をこちらに向ける侵略軍の兵士の姿を見た。その顔は醜く歪んでいた。
「ユウスケ、ユウスケ!」
クオンたちが自分の名前を呼んでいる。雄介は大丈夫だと言おうとしたが、口から出るのは苦痛に喘ぐ声だけだった。傷口を押さえる両手の指の間から熱く滑った液体が流れる。少しでも身じろぎすると押し寄せる痛みの波に咽び泣いた。
その時、自分の身体の上に黒く大きなものが覆い被さった。雄介は恐怖で顔を引き攣らせた。黒い犬の化け物の双眸が灼熱の太陽にも負けないくらいに光っている。
化け物の舌が雄介の下腹部に伸びた。舌先が銃創をひと舐めする。雄介は身体を硬直させた。血を舐めて味見しているのだ。
それから化け物は銃創を抉るかのように舌を動かした。傷口を通して身体の内部を弄られているような気持ち悪さと、焼けるような痛みに雄介は強く目を瞑った。目の縁に溜まっていた涙が一気に溢れ出した。
助けを呼ぼうとしても声が出ない。自分で両手両足をばたつかせて抵抗しようとするも、痛みに支配され身体の自由がきかない。両手は化け物の大きな手で胴体の横に揃えられるかのように固定されてしまった。
化け物の舌先は傷の奥深くまで入り込んだ。雄介はもう駄目だと思った。一雫の涙が頬を伝っていく。
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