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08. 治りゆく傷
化け物の舌が上下左右に動くたびに、銃創の内部から何か石のような塊が上へ上へと押し出されていく。
やがて、化け物が傷口から長い舌をズルズルと引き摺り出した。雄介は舌と内臓の間で摩擦が起きたかのような錯覚に囚われ、背筋に悪寒を走らせた。
化け物が舌を抜いた時、傷口から何か光沢のあるものが2個も出てきた。ぽとんと地面に着地したそれらは丸く尖った、細長い石だった。雄介がそれらの存在に気付き、上体を起こした時だった。
痛くない。あの激しい痛みがどこにもない。雄介は信じられない気持ちでTシャツの裾を捲った。腹部は真っ赤に濡れていたが、銃創はどこにもなかった。銃撃された事実が全ての記憶から抜け落ちたように感じた。
雄介は化け物を見上げた。化け物はその瞳に雄介がはっきりと写り出すくらい真っ直ぐに見下ろした。
「俺を助けてくれたのか?」
恐る恐る聞いてみても返事はない。その双眸には金色の炎が相変わらず燃え続けている。ただそれに対して恐怖は感じなかった。雄介の胸に一種の温もりが芽生える。
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