11 傷

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「違います。その脚の傷は俺の過ちのせいです。だから俺は、俺が貴方のその傷を癒すために治癒魔法を学びたい。俺のせいで傷ついた貴方を、俺のこの手で少しでも癒したい。そしてあなたを治癒魔道騎士に、貴方に相応しいあの場所に戻してあげたかった」 「ダウワース」 「貴方のことを、あの日から慕わしく思っています。貴方を愛しています」  引こうとした手をダウワースは離さない。もう気持を隠そうともしない真っすぐな瞳の奥は情熱に燃え、心の動揺を隠そうと取り繕い目を反らすアイユーブの頬に手を当て柔らかな喉を撫ぜ上げる。そして頸動脈に太い親指をきゅっと押し当てた。 「貴方の気持ち聞かせてください。これほど無防備な姿で俺の前にいるということは、俺を特別な男だって思ってくれているからですよね?」  苦し気な表情を見せたあと、アイユーブは酒を飲み赤く染まった事後を思わせる艶美漂う顔のまま、ほうっと小さくため息をついた。 「お前にはかなわないな」 「教えてください。全て。俺に。応えて」  この上まだためらうように視線を泳がせた後アイユーブは呟いた。 「ここでは……」  ここでは駄目だ。やかましい酒場の一画で話すような話題ではない。そう言おうと思ったが、またもや時間切れのようだ。治癒の魔法が効く時間がどんどん短くなっている。  ほろ酔いがアイユーブを大胆にさせる。天板に手を突き上半身をダウワースの方に懸命に伸ばし男の唇を奪おうと顔を傾けてきたが、今度はダウワースが彼の口元に指先を押し当て、ぐいっと頭を強く引き寄せ耳朶に唇を押し当てた。 「ここでは駄目です。貴方のそんな色っぽい顔、他の誰にも見せたくない。俺の部屋に行きましょう、ね?」
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