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13 触れて撫ぜて
「俺は学院始まって以来の速さで魔法使いになって、同時に治癒魔導士の位も手に入れた。本当は魔道騎士団で実務に数年ついてから神殿勤めに推薦されるわけだけど、俺は例外だった。その頃新しい神子様が神殿に上ったばかりで、先代様から色々な教えを受けている最中だった。神子様は王都についてまだ日が浅かったから、当時は気が塞がれることも多かったんだろうな。境遇も年が近い俺は神子様が夜寝る前のひと時お傍で他愛のない話をしてお慰めする、そんな仕事を任された」
当代の神子様は確かに師と年ごろが近いとダウワースも記憶している。彼が先代を継いだのは五年ほど前か。濡れたように艶々と輝く漆黒の髪を結い上げ、神子用の青白い式典用の装束に身を包んだ姿は、美女すら眩む美貌と相まって神々しいばかりだった。優美な姿と温和なお人柄で人々からの信仰も熱い。
そんな麗容な神子様の傍で少年剣士であった師が侍り楽し気に談話をしている様は、さぞかし微笑ましく愛らしかっただろうとダウワースは目を細めた。
「なあ、ダウワース。知っているか? 神子様は生涯妻帯なさらない。次代の神子様は天啓を受けて先代が探される。一生涯神殿に籠って祈りを捧げて、必要ならば選ばれた重傷者を癒す。そうして生きていく」
「それは知っています」
「だけど慣例的に……。神子様が望まれたら、お、お慰めする事が治癒魔道騎士の役割の一つなんだ。その、わかるだろ。お前みたいな綺麗で屈強な男たちばかりだ。その、な」
「分かります。言いづらいなら言わなくても大丈夫ですよ」
だが瞬間ダウワースの内に燻っていた消えぬ疑念と妬心の炎が燃え上がる。
あの男が付けた忌々しくも誘惑的な甘い香りが残る柔い首筋に喰らいつき、じゅっと強く吸い上げた。そのまま大きなシャツから覗く剥き出しの首筋から薄い肩までも、細い腰に腕を巻き付け抵抗を奪ったまま紅い花を散らしていく。アイユーブはその刺激に背を反らせ喘いだ。
「あっ、だめ」
未だあんなにも強力な魔力を奮う身体がか細く震えている。アイユーブが本気を出して抵抗すればおそらくこの腕からは逃れられる。ダウワースがアイユーブを傷つけられないと、きっと彼も分かっているだろうから。だが狡いダウワースはその逆をつく。自分がアイユーブを傷付けることがない様に、彼もまた自分のことを傷付けるようなことは絶対にしないだろうと。
だから年下の男にいいように弄ばれながらも、アイユーブは健気に耐えている。
(こんなの、滾るに決まっている)
そこに紛れもない好意を感じるから、引き下がることなどできなかった。
ダウワースの大きな掌が指が回りそうなほど細い太腿をなぞる。そのまま滑らかな内腿を辿り、やや小ぶりな男の証にたどり着いた時、アイユーブは吐息を弾ませながら、抵抗して身をよじった。
「神子様を貴方がこれを使ってお慰めしたんですか? 初心な貴方が? にわかに信じられませんね?」
そのまま下着の紐を解き、手を中に入れまさぐると、それは僅かに芯を持ちはじめていた。そんなところまでもすべすべとして、男の生々しさを感じさせない。指の輪の中ゆるゆるとしごけば、甘い声を上げ掛けた唇を手の甲で塞ぎ、アイユーブは涙声で首を振る。
「し、してない……! 離せ!」
「ではこちらですか?」
指の腹で押したのは柔らかな双丘に隠された慎ましい窄まりだった。
「ひうっ!」
返事を聞くまでは手を出すまいとあれほど固く誓っていたのに。十年ものの思慕は簡単に過去の男への嫉妬と欲望にまみれていく。
「ここに、あの優男の神子様を迎えられたんですか? 彼は貴方を、男として愛してしまったんですか?」
「触るな」
「貴方も」
ダウワースの手に爪を立て抵抗したので一度は引き、代わりにすでに兆している自らの腰のものをぐり、とアイユーブの尻に押し付ける。
「あうっ」
「神子様を愛していたということですか?」
「い、いやだ。離せ」
「答えなさい、でないとこのまま、今度は俺が、貴方を穢しますよ」
しかし酒に酔い、日頃よりずっと熱い身体をよじり、嗚咽を漏らすアイユーブが流石に哀れになってダウワースの腕を引き、細い身体を反転させて、やすやすと腕の中に捕えなおした。
「おまえっ、なんでこんな。お前が話せっていったのにっ、意地が悪い」
そう詰りながら胸を叩いてくる子どもっぽい仕草すら、愛おしくて仕方なくなる。
「男は好きな子を苛めたくなる生き物なんです」
「ば、馬鹿じゃないか!」
向き合って小さな口を舌で愛撫しながら口内を優しく舐め上げていけば、昼間からの何度目かの口づけで学んだアイユーブが、ためらいながらもそれに応えて舌先で触れてくる。
「それに好きだから、いつでも触れていたい。触れて撫ぜて、可愛がって」
酔いのせいなのか口付けのせいなのか、アイユーブは汗でさらに強くなる甘い香りを漂わせながら、唇の端から光る糸を滴らせ蕩けた顔をして腕の中でぐにゃりと力が抜けるのを感じた。
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