16 無垢

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16 無垢

 ダウワースは眩暈がした。今までの話を総合すると、師の性への知識が十年前と大して変わっていないのではないかという疑いがあったが、やはりそうだったようだ。  昼間最初にスィラージュに向かって「意味が分からない」と叫んでいたのは、「冗談じゃない」という意味ではなくて、実際に意味が分からなかったということだ。 (まずい、純粋培養を侮っていた……)  アイユーブのこの半年の様子をみるにつけ、今までの経験からなのかそれとも元々からなのか、あまり女性に興味はなさそうだった。女たちはアイユーブの整った容姿や腕の良さに惹かれているようであれこれと世話を焼きにきていた。そのたびダウワースは愛想の良いふりをして蔭では気を揉まされ、自分でも呆れるほどにみっともなく嫉妬を繰り返していた。幸いだったのはアイユーブは誰に対しても同じような気さくな接し方をしていたことだ。それはダウワーズに対しても同じだったが。  だが女が駄目でもこの国は同性婚を禁止していないし、寮生活が長ければそれなりにお誘いもあってなんとなくそういう関係になることもあるはずだ。だから師がこれほど無垢なままで居られたのは奇跡に等しい。そこにあの従弟のスィラージュの影が見え隠れするのがどうにも癪だったが。  田舎の村から出てきた少年が魔法学園で天才少年として瞬く間に魔法使いになり、あっという間に世俗から離れた神殿で暮らし、今度はこの平民街で一足飛びに隠居生活。  最初から人との距離感がおかしいなとは思っていたが、そのあたりは都合がいいとダウワースは敢えて突っ込みを入れないでいた。 「ねえ、ダウワース、めす……」 「はーっ。何度も言わなくてもわかりましたから、ちょっと黙っていてください」  最初のめすいき、のあたりから、落ち着きのない師が座る位置をいじいじと変えようと、たまに身をよじるから、柔らかな尻がダウワースの股ぐらを遠慮なくごりごりと刺激しているのだ。  座りなおさせようと腰を掴もうにも、大胆に大きく開かれた白い脚が目に眩しく、あの蠱惑的な甘い香りの代わりに、師の特有のミルクのような柔らかな甘い香りが鼻をくすぐる。  見上げてくる純粋な表情は愛らしすぎて、もう完全に、兆しているどころではないほどにダウワースは高まって、ついにそれはアイユーブの知るところとなってしまった。 「ひうっ! だ、だうわーす。なんか、なんか硬いの当たってる」 「貴方だって興奮したら、こうして硬くなるでしょう?」 「最近はそうでもないけど確かに昔は朝こんなことも……。寝てる時になったりするあれと同じ? 下着汚れてやっかいなやつだ」 「寝てなくてもなります。興奮したら」 「興奮? 興奮してるのかお前」  大きさを確かめるように、真っ白で柔らかな掌がダウワースの股を隆起に沿って柔らかくさわさわ、すりすりと無邪気な悪戯をしてくるから、フーフーっと乱れる荒い息を抑えるのが苦しくなってきた。 「うわ、またおっきくなった。きつくない? 苦しくないのか?」 「勘弁してくださいっ。きついにきまってるでしょう!」  ついには背に回した片手一本で軽々とアイユーブを抱き上げたまま、ダウワースは寝台の上に彼を押し倒した。 「ふぇ?」  まだ足を行儀悪く大きく開いたまま、茫然と天井を見上げるアイユーブの目線の先は日頃穏やかな黒い瞳を欲望にぎらついた若い雄が、余裕のない様子で上着を脱ぎ捨てる様が映った。  月の光に照らされた腹筋から胸へのラインは陰影が濃く映るほど逞しく盛り上がっている。きらきらとした雪の粉のように見える光の粒子が頭のてっぺんから降り注ぐようにダウワーズを包みこんで消えていく。彼も自分を清めたのだと分かり、アイユーブはこれから始まることへの期待と不安で胸の拍動が痛い程だった。  太く逞しい腕が今度は下履きに手をかければ、先ほどアイユーブを悩ましく押し上げていたものが勢いよく飛び出る。  その腹につくほど反り返ったものの大きさから目が離せず、アイユーブはごくり、と生唾を飲み込んだ。 「なにそれ……」 「見たことがないんですか? こうなっている男のものを」 「いや、その。自分のとなんか、ちょっと、大分? 違うような?」  雄っぽい仕草でダロワースが自身の逸物を無造作に手に取る。 「触ってみますか?」 「えっ。あ……」  服の上からは大胆に撫でまわしてきたくせに、アイユーブは急に怖気ついたように尻でじりじりと寝台を上へ逃れていく。
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