セシルと骨董屋

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セシルと骨董屋

俺は競馬場からの帰り道、アダンから聞いた話を思い返していた。 アダン《お代は当たってからでいいからさ…。今回の話はよく当たるっていう路地の人形爺さんからの話で。…聞くか?》 アダン《特別だからね!…そいつはここのすぐ近くの人気の少ない裏路地で骨董屋を開いている。骨董品もあるが人形ばかり売っていて気味の悪い場所だ。買取もやっているらしい。…ただ気をつけて行けよ。》 家から競馬場までは混んでいても大通りを通る。アダンの言っていた裏路地は何度か通った事はあるが、あまり良い場所では無い事は知っていたので、通らないようにしていた。 車を10分ほど走らせ裏路地に向かう。昼だと言うのに徐々に暗く静かな道になっていく。道はそこまで狭くは無いが、道自体が悪く時折がたつく。路地には横たわった人が何人かいた。暗く重苦しい雰囲気の通行人達が俺の車をじっと見つめる。とても嫌な雰囲気だ。 車を走らせて20分、目的地に着いた。アダンが言っていた通り、外に人形が沢山飾ってあり、とても不気味な雰囲気のあるお店だった。駐車場はなく路上に止めた。壊れているのか駐車料金の機械が反応しない。俺は後部座席に置いていた鞄を持ち、車から降りる。車の鍵を締め、俺は意を決して入る。 中は8畳くらいあり、古いがランタンの光が所々ぼんやりと明るく、綺麗に壺や皿が並んでいる。皿は食器棚にまとめてあったり、大きいものはテーブルに置いてある。 ???「…いらっしゃい。…兄ちゃん。何の用だい?」 俺が皿をまじまじと見ていると後の方から声をかけられた。俺は驚き、反射的に声のする方を振り向いた。 店主「…驚かせるつもりは無かったんだ。すまないねぇ。兄ちゃんが見てるその皿、いいだろう?知り合いから譲ってもらったんだ。兄ちゃんが買うなら今回特別に安くするよ。ヒャヒャ。」 不気味な笑い方をするやせ細った老人が暗闇から現れた。 セシル「違う。俺は買い物に来たんじゃない。あんたにこの人形を見てもらいたくて来たんだ。」 俺は持っていた鞄から人形を出した。 店主はその姿を見て素早い動きで近づいて来る。 店主「これか!?よく見せてくれ!」 俺は店主に人形を渡す。店主は受け取ると目を細め、近くにあったランタンで人形を照らす。ブツブツと独り言を言いながら隅々まで観察している。 店主「…お前さん、これ、どこで手に入れた?」 セシル「死んだ祖母が生前大事にしていた人形だ。どこで手に入れたかは知らない。」 店主「…6408ユーロだ。」 セシル「他の店で7000ユーロで買い取りたいという奴がいる。7400ユーロなら売ってやってもいいが?」 はったりだが言ってみた。どう来るか。 店主「…7000ユーロ」 セシル「7300ユーロ」 店主「7100ユーロ…負けたよ。7200ユーロでどうだ。奥に金がある。」 セシル「…いいだろう。人形は置いていけ。そのまま持ち逃げされても困るからな。」 店主「ヒャヒャ、疑り深いねぇ。しばらく待ってな。」 10分後、店主は奥の部屋から帰ってきた。 店主「レジが向こうにある。そこで渡そう。」 俺は店主について行く。店主はレジに着くと明かりをつけ、カウンターに金を並べる。 店主「大丈夫だとは思うが確認してくれ。」 1枚づつ俺は金を確認していく。 セシル「…確認した。金はぴったりあった。」 俺は店主に人形を渡し、カウンターに並べた金を再度確認しながら鞄にしまっていく。 店主「…この辺は貧民街だから帰り道は気をつけな。」 そう言い残し、レジの奥の部屋に人形を抱き抱えて入っていった。一瞬人形の目が赤く見えたが気のせいか? 俺は店を出て周りを確認した。歩いている人はおらず、遠くにヒソヒソと話している女が2人と向かいの路地にタバコを吸っている男1人。少し離れたところに座り込んでいる老人1人と横になっている男1人がいた。 俺は、一刻も早くこの場から去りたかったが、車を軽く点検した。窓は割られておらず、鍵穴もいじった形跡は無く、タイヤもパンクしていない。車に乗りこみエンジンをかけ、車を走らせる。特に走行にも問題なかった。信号で止まっても俺をじっと見る人や見てヒソヒソと話している人はいるが何もしてこなかった。ルームミラーで時々後ろも確認していたが何も無かった。ようやく大通りが見え、出るタイミングを伺う。緊張のせいかとても喉が渇いていた。買っておいたペットボトルへ右手を伸ばす。その瞬間、右手に激痛が走った。見ると小さな蛇が右手に噛み付いていた。俺はとっさに扉を開けて逃げようとしたが、蛇の方が早かった。蛇はすぐに俺の腕をつたい首筋を噛んだ。激しい痛みと共に、意識が遠のいていくのを感じた。
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