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「レヴィンで構いません。本日は急な用事のためお伺いできなくなったニークヴィスト侯爵令息の代理で参りました」
「急な用事?」
ポカンとしながら、頭を下げた彼を見る。
黒髪だと思った髪が、温室に射す太陽光に透けて濃紺だと知った。
「都合が悪くなったなら仕方ないですわ。なら、別の日に……」
キラキラと光を反射し輝く髪につい見惚れながらそう口にする。
しかし目の前の彼は頭を下げたまま動かず、何も言わない。
“……あぁ”
そんな彼の様子にやっと察する。
“伝言に、ではなく『代理』と仰ってましたわね”
つまり私は、婚約後はじめての顔合わせだというのに早速すっぽかされたということなのだろう。
“貴族の政略結婚なんて、こんなものですわね”
わかっていたつもりだったが、やはり少し胸の内が重くなり俯きそうになる。
それでも、落ち込むなんて馬鹿らしいから。
「レヴィン様が悪いわけではありませんわ」
精一杯の微笑みを浮かべそう告げると、やっと顔を上げた彼のアメジストの様な深い紫の瞳と視線が絡む。
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