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だがこの彼女の城の中で、彼女が俺に何をしても全て捻り潰されると思うと流石に萎縮しごくりと唾を呑む。
――まぁ、そんな状況だからベネディクトが俺に押し付けてきたんだろうが。
「行くか」
約束の時間キッカリ十分前。
何一つ誠実ではないこの状況、せめて一つくらいは誠実でありたいと時間だけは守り門番に声をかけた。
そのままメイドに案内されたのは、エングフェルト公爵家の温室。
ガラスで出来た建物の中には色んな種類の花たちが育てられ、本当に美しかった。
“あ、あれ今度交配してみたいと思ってたんだよな”
これも職業病とでもいうのだろうか。
ついその世界に見入られていると、俺の前で足音が止まりハッとする。
慌てて視線を合わせたベネディクトの婚約者は、明るめのミルキーベージュの髪にどこまでも澄んだ薄水色の瞳が輝いていて。
“この天使みたいな見た目が、これから怒りに染まるのか……”
いや、怒るならまだいい。
万一泣かれでもしたら。
“ちょっと面倒くさいなぁ”
なんて。
今思えば彼女も被害者だというのに、そんなことを内心考えていた。
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