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「エングフェルト公爵令嬢にご挨拶いたします。クラウリー伯爵家が次男、レヴィンです」
「クラウリー伯爵令息……?」
「レヴィンで構いません。本日は急な用事のためお伺いできなくなったニークヴィスト侯爵令息の代理で参りました」
「急な用事?」
ポカンとする彼女に罪悪感を覚えながら頭を下げる。
「都合が悪くなったなら仕方ないですわ。なら、別の日に……」
“その次が来ないんだよ……!”
ベネディクトは親睦を深めてこいと口にした。
ということは、本人はいくら日にちを再設定したところで来るつもりがないということだ。
“いくら政略結婚だとしても酷すぎる”
だからこそ、もうさっさと罵倒してくれと思った。
そうすれば、この気まずい空間から逃げ出せるから。
――それなのに。
「レヴィン様が悪いわけではありませんわ」
俺の様子で状況を察したらしい彼女は、精一杯の笑顔を俺に作ってくれた。
“ハマナスの花、みたいだな”
ふとそんなことを思う。
濃いピンクの花をつけるハマナスは、大きな円状に花開き目を引く反面、花言葉が切ないものだと有名で。
『悲しくそして美しく』
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