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そんな日が来ないことをわかっていながら、それでも俺は思いを馳せさせた。
“同情、だな”
自分に芽生えたそんな感情に答えを当てはめる。
本当に同情なのかはわからないが、どうせただの期間限定な身代わり婚約者なのだ。
同情以上の感情は絶対持つべきではない。
そう、わかっているのに。
「あ、アガパンサスですね」
「アガパンサス?」
相変わらずベネディクトの身代わりで来た毎月のお茶会で、エングフェルト公爵家の温室に植えられたその花が目に入りつい口にしてしまう。
どうやら花の名前に疎いらしい彼女が、不思議そうにキョロキョロとして。
「あそこの青紫の花ですよ」
「これかしら」
俺が指差した先に視線を移した彼女はスクッと席を立ち植木の近くにドレスでしゃがみこむ。
その綺麗なドレスが土で汚れないか心配になりつつも、俺が指差した花に興味を持ってくれた彼女を見てドキリと胸が跳ねた。
“ベネディクトは花になんか興味ない。だから『本物の婚約者』とは絶対こんな話はしない”
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