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つまり今この瞬間は、ベネディクトの身代わりではなく、レヴィン・クラウリーとして彼女と話しているのだ。
「これは全て花なのね」
アガパンサスは単子葉植物に分類される花で、百合のような形状の小さな花が円形に沢山咲く。
種類によって若干花の形は変わるこのアガパンサスだが、ここの温室で育てられているのはラッパのような形状の花をつけるタイプのもので。
「小さな花が虚勢だけ張ってラッパを鳴らしてるみたいね」
そんな表現に、以前感じた痛みとは比べ物にならないほどズキッと胸が痛んだ。
「ふふ。私みたい」
“それはどういう意図で言っていますか”
くすくすとどこか哀しげに笑う彼女に、そう問えたらどんなに良かっただろう。
慰めることを許して貰えるなら抱き締めたいし、寄り添うことが許されるならずっと側にいる。
八つ当たりだって構わないし泣いてもいい。
むしろ彼女が泣く場所に選んで貰えるなら何でもしたいとすら思ってしまう。
そう願うほど、彼女は一人で立ち続けていて。
「虚勢だとしても、素敵です」
「?」
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