泣き鬼とやさしい影鬼

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 強すぎて、自分自身の限界を見誤った――それが彼女のなのだろう。  彼女がいるのなら、少しだけ私の世界は優しくなるのかもしれない。 「これからどうしたい?」 「……生きてみたい、生きられるだけ。まひるが……許してくれるのなら」  言葉を飲み込みながらも、勇気を出して告げれば彼女の影が微かに揺れた。 「いいよ。……ただし、あなたが傷つけた数の分だけ、誰かにちょっぴりやさしくして生きてほしいかな」 「それが私のしてきたことの償い」 「ううん。あなたがちょっとでも幸せになればいいな、っていうお節介」  そう言われてしまって、私は嬉しくて少しだけ泣いてしまった。 (()が幸せになってもいいと、望んでくれたのは「まひる」ぐらいだ)  キーコーカーコーン。  チャイムの音ともに絵の具を塗り潰した真っ黒で、机や椅子、教室という空間そのものが棺として厄災を詰め込んだものを、因果応報にふさわしい分量で彼らの影に仕込んだ。  時間としてはほんの一瞬だっただろう。  その日のホームルームは通夜のようにとても静かだった。  何となくの空気で、自分たちが狩る側ではなく、狩られる側に回ったと気付いたのかもしれない。 (内側から厄災の毒は回る。毒を育てるのは悪意。留めるあるいは溶かしきるのは善意。やはり私は、まひるほど甘くはない気がする) 「まひる」を巻き込んだ時点で、それはそうだろう。  でもだからこそ「まひる」にこれ以上嫌われるのだけはいやだな、と思ってしまった。  私がただ一つ、「まひる」にできることは、彼女が消えてしまうまで一人にしないことだ。  幸せにすることも、どうにかすることも――たぶん、できない。  そう「まひる」に話すと、彼女は影を大きく揺らして笑った。 「一人ぼっちじゃないのなら、いいよ」と。  やっぱり「まひる」は、どこまでも優しい。
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