6人が本棚に入れています
本棚に追加
強すぎて、自分自身の限界を見誤った――それが彼女のなのだろう。
彼女がいるのなら、少しだけ私の世界は優しくなるのかもしれない。
「これからどうしたい?」
「……生きてみたい、生きられるだけ。まひるが……許してくれるのなら」
言葉を飲み込みながらも、勇気を出して告げれば彼女の影が微かに揺れた。
「いいよ。……ただし、あなたが傷つけた数の分だけ、誰かにちょっぴりやさしくして生きてほしいかな」
「それが私のしてきたことの償い」
「ううん。あなたがちょっとでも幸せになればいいな、っていうお節介」
そう言われてしまって、私は嬉しくて少しだけ泣いてしまった。
(鬼が幸せになってもいいと、望んでくれたのは「まひる」ぐらいだ)
キーコーカーコーン。
チャイムの音ともに絵の具を塗り潰した真っ黒で、机や椅子、教室という空間そのものが棺として厄災を詰め込んだものを、因果応報にふさわしい分量で彼らの影に仕込んだ。
時間としてはほんの一瞬だっただろう。
その日のホームルームは通夜のようにとても静かだった。
何となくの空気で、自分たちが狩る側ではなく、狩られる側に回ったと気付いたのかもしれない。
(内側から厄災の毒は回る。毒を育てるのは悪意。留めるあるいは溶かしきるのは善意。やはり私は、まひるほど甘くはない気がする)
「まひる」を巻き込んだ時点で、それはそうだろう。
でもだからこそ「まひる」にこれ以上嫌われるのだけはいやだな、と思ってしまった。
私がただ一つ、「まひる」にできることは、彼女が消えてしまうまで一人にしないことだ。
幸せにすることも、どうにかすることも――たぶん、できない。
そう「まひる」に話すと、彼女は影を大きく揺らして笑った。
「一人ぼっちじゃないのなら、いいよ」と。
やっぱり「まひる」は、どこまでも優しい。
最初のコメントを投稿しよう!