2人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
「鬼遊びしよう!」
そう最初に言った子の名前を思い出せなくなったのは、いつだっただろうか。
元々は「鬼ごと」という五穀豊穣を願い儀式だった。
それを友人の誰かが「鬼遊び」と言って、「鬼役の子が田の子たちを追いかける」という遊びをするようになった。
最初に言い出した友人は蹴鞠と歌が得意だったと思う。
他の子たちも笛や武術、占いなど得意分野があって、とても輝いていた。
私は――どうだっただろう?
長いこと深い霧ばかりをぐるぐる走った。
人影が見えて、追いかけても、追いかけても捕まえられない。
肩や腕に触れた途端、白い煙となって消えてしまう。
いつまで経っても私が鬼で――鬼のまま、終わらない。
それなのに喉も渇かないし、お腹も減らない、眠くもない。
ずっと誰かの背中を追いかけているのに、捕まえられない。
誰も私を認識してくれない。
いつからか、自分が人間じゃないと気付いた。
名前も、自分が何だったのかも剥がれ落ちて、忘れてしまった。
それが悲しくて、泣いてしまった。
わんわん泣いた。
どうせ誰も気付かないなら、零れる涙も、声も誰にも気付かれない。
「どうして泣いているの?」
声がした。上からでも下からでもない。
すぐ傍に、隣に私と同じくらい五、六歳の女の子が立っていた。
艶のある黒髪が印象的で、猫のような大きな目に、幼い顔立ち。異国の服を着ていて膝下が見えてしまっている――不思議な子。
「君は……私のことがわかるの?」
「うん。綺麗な着物なのね。灰色の髪に真っ赤な瞳は、とても綺麗で素敵だと思う」
真っ黒だった髪が灰だらけの嫌いだったのに、その子は綺麗だという。
泣きすぎて酸漿色の瞳を不気味がらずにいる。
「ありがとう。……ずっと何処にも行けなくて、誰かを追いかけていたのだけれど、それも分からなくなって、怖かった」
「そっか。……じゃあ、林檎飴あげる」
最初のコメントを投稿しよう!