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まだあちら側と繋がっているかもしれない。
そう思えば迷わず森の中へと駆け出した。
深い霧で前がよく見えない。
それでもあの子の姿を探して追いかけた。
あの子の姿を思い出して、また霧の中を駆け回る。
「まひる」は私が手を掴んでも消えなかった。
灰にならなかった。
だから――また会えるかもしれない。
どうかあの子を巻き込まないで。
優しくて、笑顔が可愛かったあの子を、こんな孤独で恐ろしい場所に置き去りにしないでほしい。
追いかけて。
追いかけて。
ちらりと霧から黒髪が見えた。
「まひる!」
どれだけ走っただろう。
霧の中をずっと追いかけて。
探し求めて、走った。
たった一度の恩恵。
自分が誰かを殺してしまう鬼ではないと、証明できたただ一人の少女。
どれだけ走っても彼女の姿はなかった。
いなくなった「まひる」の代わりに、世界は私を真緋琉だと認識した。性別が変わっても周囲は、最初からそうだったかのように振る舞う。
私が生きていた時代とは異なる遙か未来。
「まひる」の言葉通り、自分の常識が異なる夜が明るく、豊かな世界。
とても生きやすい世界に、心が震えた。
誰もが自分を認識し、当たり前のように接してくれる。
ナツヤスミという時間は、とても素晴らしい極楽のような時間だった。
いつしか「まひる」への罪悪感は薄れていた。
(幸福だった「まひる」から全てを奪い取った。……でもだから何だというのだ。私はこれまでに幸福だった者から、この役回りを押しつけようとしたじゃないか。今さらだ)
幸せだった人間が羨ましくて、妬ましくて、悔しくて、手を伸ばした。
私はこんなモノになってしまったのに、温かな陽射しの下で笑う者を見る度に触れて壊してきた。
今度こそ自分が幸福になる。それを得るだけの環境があるのだから。
そう、思っていた。
***
学校――学び舎の教室に入った途端、世界が一変した。
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