泣き鬼とやさしい影鬼

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 この時代で言うイジメの標的にされていたのが「まひる」だった。  ことの発端は、幼なじみが好きだった男子は「まひる」が好きだったそうで、それを嫉んでクラスの女子が「まひる」に嫌がらせをしていたという。  嫌がらせをしてもいつもニコニコ笑って、普通にしていた「まひる」の記憶が流れ込んできた瞬間、このクラスを呪いで真っ黒に染め上げた。  こんなに怒ったのはいつぶりだったか。  腹の底から、何もかも分からないほどの怒りが自分を塗りつぶす。  ありとあらゆる疫病の種がこの教室から芽吹き、蒲公英の種のように膨れ上がって拡散しつつあった。 (ああ……。そうか、そうだったのか)  幸福に見えて、本当に幸福かどうかは本人の心しかわからない。  表面では笑っていても、  絶望し、  悲観し、悲しみや怒りに震えながらも――それでも笑みを絶やさずにいる強いモノもいるのだ。 「まひる」は強くて、そして他人の痛みに敏感で――優しい子だった。 (そんな子を私は――同じ、モノにしてしまった……)  ポツリと床に落ちたのは涙だった。  涙を流したのは――いつぶりだろうか。 「まひる、……すまない」 「謝ってくれたから、いいよ」  ふと声が届いた。  しかし彼女の姿はない。 「ここだよ、ここ」  声は自分の下、影から聞こえてきた。  よく見れば、彼女の輪郭の影が自分から出ている。思えば霧の中で彷徨っているとき、私自身の影はなかった。  それが今は彼女の影がぴったりと足に縫い付けられている。  彼女は影鬼になったのだと言う。 「まひる?」 「うん。そう、貴方が泣いたことで繋がったみたい。ふふっ、やっと喋れた」 「……怒っているよな」 「うん。……私のことを忘れようとして、ムッとした」 「ごめん。私は……君に嫌なこと全てを押しつけて逃げた」 「いいよ。私も……あなたに嫌な役回りを押しつけたから」  押しつけられたのは、どちらだったのか。  破滅に向かうまでは時間の問題だったのだろう。
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