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顛末は変わらない。
彼女が鬼になった段階で素養はあった。
無意識に彼女は自身の心に誰かを呪う気持ちが蓄積していったのだろう。表に出さずに、笑って耐えて、耐え続けて――壊れる寸前だった。
その前に誰かに相談すればよかったのだろう。
妹が生まれたばかりで、自分の問題を先送りにしていなければ――あるいは。
真緋琉であり、「まひる」は、どちらも人ではなくなってしまった。
ただ私との相違点があるとするならば、理性的だったというべきだろうか。
「まだ、この教室に芽生えた厄災をここだけに留めることは出来る」
「……まひる、はそれでいいのか?」
「うん、貴方が怒ってくれたから。でもそれ以外の関係ない人たちまでは嫌かな。ここに居るクラスのみんなも一度に死ぬよりも、不幸が連続で訪れほうがいいかも」
思った以上に陰湿かつ容赦ない報復に笑った。
命は奪わない――けれど、報いは受けさせる――と。
怒っているのだと、それが感じ取れて何故だか安堵した。
(怒ってよかったのだ。……もっと怒って駄々をこねて、泣き喚けなかったから――それを周囲があるいは自分が許せなかったから、私たちは――こうなった)
彼女は無為に命を奪うことも、災いを当たることも望まなかった。自らの行いに対しての報いだけを器用に分配する。
ただ優しいだけではないけれど、私にはとても優しい行動に思えた。
少なくとも自らの不幸を呪い、八つ当たりをして厄災をばら撒いた私は大人気なかっただろう。理屈は分かるけれど、感情を、激情を押さえ込み、折り合いを付ける。
それができる「まひる」は、とても強くて――総じて優しいという印象は変わらなかった。
「私よりもよっぽど独善的で容赦がないな」
「いんがおうほう、って言うのを習ったもの!」
影になって人でなくとも彼女は笑う。
明るく、不用意に憎まず、怨まない。
(ああ、たぶん、彼女はどこまでも、何になったとしても、優しくて、強い人なのだろう)
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