2 待ち合わせの私室

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2 待ち合わせの私室

 「アンディ、お待たせ〜って、あら?」  待ち合わせていた婚約者の私室に現れた金髪翠眼の美少女は眉を顰めて眉間に皺を寄せ、開いたドアの向こうを見回してそこに待っているはずの第2王子アンドリューの姿が何処にもない事を確認した。 「おかしいわ。又あの女狐かしら?」(小声)  現在隣国の特使一団が王城に在中しているのだが、その中には隣国の国王の末娘の王女が含まれているのだが『女狐』とはその王女の事である。 ×××  彼女の婚約者であるアンドリュー第2王子は、サラサラとした癖の無い黒髪に切れ長の濃い群青の瞳をしており、高い鼻梁や形の良い唇、男らしくシャープな顎の形をした実に涼しげな美男子だ。  平凡顔の多いこの国の王族男性の中では際立って顔面偏差値が高く、騎士のような体格と適度に健康的に日焼けをした美丈夫である。  どうやら隣国の末王女は到着初日にオフィーリアの婚約者であるアンドリュー第2王子に一目惚れをしたらしく、事ある毎に彼に付き纏い城に滞在しているのをよい事にオフィーリアと彼のデートの邪魔を毎回してくるのだ。  歓迎の夜会でのファーストダンスは婚約者や伴侶という決まりがある為、流石に遠慮してもらったがそれ以降は共にいたオフィーリアをまるでその場に居ない者の様に無視して、彼に纏わり付こうとパーティの間中何度も画策していたのは見え見えだった。  その翌日はアンドリュー王子一人に王都見学の案内をさせようと突撃して来たが、流石に婚約者でもない若い男女で出かけさせるのは不味いと、王宮の客室に連泊する予定だった彼の婚約者であるオフィーリアも共に案内する事に決まり、日を改める事になった。  因みに隣国の使節団は王女も含めて離宮に滞在中だが、朝早く、若しくは夕方遅くに第2王子の部屋に行こうとしてその度に離宮の警備兵に止められているらしい。 ×××  「おはよう、リア?」  不意に扉前に立っていたオフィーリアに後から声をかけて来たのは王太子であるオースティン・アバルティーダ。  美丈夫な弟と違い茶髪に栗色の瞳をした実にこの国の王族らしい、そこそこ整った平凡顔の男でオフィーリアとは10歳違いの既に妻帯者で一児(王子)のパパでもある。  いつもの側近が後ろで書類の束や本を抱えている所を見ると協議の為の下準備中なのだろう。 「御義兄様、おはよう御座います」 「どうしたんだい? 顔が凄いことになってるよ」  彼はオフィーリアの額を突っついて笑う。 「約束の時間なのにアンディが部屋にいないのよ」  思わず彼女は益々眉間に皺を寄せた。 「ほう、アイツが君との約束を守らないなんて。季節が冬に逆戻りか? 迷惑だな」  思わず廊下の窓から差し込んでいる、春のうららかな日差しに目を向ける王太子。  
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