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47 サンドロ・ボーフォート①
「つまりフロイライン王女殿下からの手紙を鵜呑みにして、将軍がおかしくなったと?」
「・・・端的に言えばそういう事になります」
暗い地下牢の鉄格子の前に簡素な木の椅子を置いて何故かアバルティーダの王太子オースティンが牢の中にいる男、隣国の将軍の元側近サンドロ・ボーフォートと言葉を交わしていた。
「王女の手紙の内容は政治的には取るに足りない物ばかりでしたので、そのまま叔父に渡していました。そのせいで往年の恋心を拗らせ、アガスティヤの令嬢を妻にするなんて考えてたとか・・・」
薄暗い中で苦笑いのサンドロ。
「気持ち悪いにも程がありますよ」
この男『ノーロリコン、ノータッチ』主義だったようだ・・・
×××
地下牢で拘束されているワイアット・ボーフォートの側近、サンドロ・ボーフォートに面会をしにきた王太子オースティンに彼は語る。
「我が国の商人達との取引額や関税が不服だといい始めたスティール王国が地方で略奪を始めたのを止めるために、アバルティーダの穀倉地帯に目を向けさせたのが最初でしたね」
スティール王国とアバルティーダ王国の戦争の原因は元々鉄やアルミといった鉱物資源は豊富だが、その開発のせいで土地が痩せ不作が続いたせいで起きた食糧難から始まったのだが、裏で糸を引いていたのは実はこの男だった。
スティール国軍が躍起になって穀倉地帯を奪おうとしている間に、基本的な国力を低下させ国外輸入に頼るように仕向けたのだという。
「こちらからの輸入に頼り切りにならざるを得ないくらい国内の鉱山を広げ、我が国が金属を買い取って武器と共に食料を輸出する。スティールが元々少なかった田畑を手放し始めて生産力が低下をしたのを見計らって一切の輸出を禁止しました。アバルティーダと我が国の長年の友好条約を持ち出してね」
そうなると戦争どころでは無くなるため、すぐに停戦になるだろうと楽観視していたのだという。
「我が国の王族は意外に慎重派なんでね、自分達の保身には敏感ですが平民の事なんか考えてくれないんですよ。だから国全体のことは軍部が一切を取り仕切ってただけです。王族は軍部に政治介入はさせていないと言いますが、実際はそうじゃないんですよ。ヴァルティーノの王族は最後に署名をして玉璽を押すだけです」
「では、貴方が実質宰相役ということか?」
ギョッとした顔になるオースティン。
「ま、似たようなもんですがね。あの国はそういう役職無いでしょ? 大臣はいるけど。やりたくてやってたわけじゃ無いですよ。内情を知らない高位貴族出身の武官や近衛は王族に付きますが、下級貴族出身の武官や一般兵はワイアット・ボーフォート将軍に付き従いますね。官吏もバラバラですよ。この間の2国間協議もグダグダだったでしょう? 今のあの国そのものです」
彼は苦笑いをした。
「私の推測ではあの戦争は半年も争えば終わるはずだったんです。元々スティールは何もかもがギリギリでしたから。戦争が始まってからはあの国への武器と食料の供給は随分絞りました。なのに中々終わらない。何故か分かりませんでしたがアバルティーダ国内の貴族が、我々が手を引いた分の武器や食料の密輸をしていたとは思いもしませんでしたよ」
ハインド元伯爵達のことである。
「聞きたいんだが、前アガスティヤ公爵の馬車の事故だが。関与は?」
肩を竦めるサンドロ。
「してないですね。そもそもアガスティヤ公爵領は我が国からは離れてますから当主を殺した所で旨味が無いですよ。叔父は港を手に入れると夢物語を語ってましたが、それを手に入れるにはアバルティーダ王国と全面戦争して占領しなきゃ通ることすら無理ですから。近場の辺境伯領ですらかなわないんですよ? そんな事するより自国内でクーデター起こして王族を追い出したほうが手っ取り早いです。実際軍はその算段だったんですからね」
「・・・え」
「まぁ、失敗しましたけど」
サンドロはため息を付き、王太子オースティンは耳を疑った。
「つまり我が国は君達のクーデターを阻止したのか?」
――うまいことヴァルティーノの国王に使われたようだ・・・
「まぁそうなりますね。叔父は旗印にはなりますけど、ちょい前から急にボケてきたんです」
「・・・」
「完全におかしくなる前に何とかしたかったんですけどねえ。しかもあの人地図音痴なんで、国境を動かしたらアガスティヤ領に近づくなんて言い出しちゃって」
「え?」
「言い聞かせるのに時間がかかっちゃってその節はご迷惑をおかけしました」
「ええええぇ?!」
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