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5 薔薇の庭園
「所で一体どこに行ってたの?」
二人仲良く、手は俗に云う恋人繋ぎのまま中庭を散歩中のオフィーリアは疑問を口にした。
「軍の訓練場だよ。あそこは流石に他国の者は追いかけて来れないから」
「ああ、なるほど」
朝から王子の私室に現れた王女から逃げるために、壁にかけてあった剣を片手に訓練場に逃げ込んだらしい。
彼女が諦めて離宮へ帰っていくまで侍従が見張り、やっと帰って行ったので慌てて帰ってきたのだというアンドリュー。
確かに彼の黒髪が、ややしっとりしているのは恐らく鍛錬場に行ったついでに身体を動かしていたせいで汗をかいたのだろう。
「それにしたってねえ。婚約者のいる王子を人質のように婿に差し出せって、どういう了見なのかしらね」
先程の義兄の言葉を思い出して眉根を寄せるオフィーリア。
「そもそも今回の両国会議は、古い条約見直しの為だったでしょ? 何で国境線を変えなくちゃいけないのかしら?」
「うん。しかもお互いに国力も拮抗してる、寧ろ我が国のほうが若干上回ってるのが分かっている筈なのにね」
そう言いながら、美しい薔薇の咲き誇るスペースに向かい婚約者を連れて歩いていくアンドリュー王子。
赤いカップ咲きの蔓薔薇の前で止まりると胸元から小さなナイフを取り出し八分咲きの花を一輪切り取って彼女の金色の髪に挿す。
「うん。綺麗だ。絶対にこの薔薇が似合うと思ってたんだ」
普段どちらかと言うと表情筋が仕事をしない彼の顔が笑顔になる。
「ありがとう」
頬を染めて、はにかむオフィーリアを見て更に微笑むアンドリュー王子。
「うん」
現在アンドリューは17歳で既に王立学園は卒業した。オフィーリアは15歳なので婚姻はどんなに早くても3年後である。
「学園ではもう会えないけど、私自身そのまま学院に進むからお昼くらいは一緒に取ろう?」
「ホントに?!」
嬉しそうに笑うオフィーリアの髪の毛を愛しげに撫でるアンドリュー王子。
その大きな手が彼女の滑らかな白磁の頬にそっと触れ、親指の先が薔薇の色の唇の端に届く。
「あと3年か〜・・・」
添えられた手に甘えるように頬を押し付けるオフィーリア。
「そうね。短い? 長い?」
「長いよ。当たり前だろ」
ちょっとだけ憮然とした顔になるアンドリューを見上げ
「ウフフ。そう言ってくれて凄く嬉しい」
そう言うとそっと目を閉じ、まるで彼の手の平の体温を味わうように愉しむオフィーリア。彼の顔がそっと近寄って彼女の薔薇色の唇を盗もうと・・・
「アンドリュー様あぁッ!! やっと見つけましたわあぁッ!!」
雰囲気をぶち壊す金切り声が二人の間の甘い空気を吹き飛ばした。
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