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51 天敵かもよ?
「どうしたんだい、ヒューイは?」
ランチを食べようとやって来た学生食堂で同じ席に着いたアンドリュー王子とオフィーリア達は、自分達から離れた席に座るヒューイと、その前に座るフロイライン王女に視線を送る。
それに気が付いたヒューイが片手をヒラヒラさせニンマリ笑い、目の前のトレイに載った肉料理を綺麗な所作で切り分けるとそれをフォークで目の前に座るフロイライン王女の口元に運ぶ。
何やら揉めていたようだが、結局彼の差し出した料理を王女は口にしたようで、咀嚼しているように見える。
それをにこやかな笑顔で見守るヒューイ。
――尤も彼女の方は後ろ姿なので表情は全く分からないが。
「学園長室から帰って来たらああなってたのよね」
ヒューイと同じ料理を切り分けるて口に運ぶオフィーリア。
こうやって見比べると若干オフィーリアの方が華奢で出る所がキチンと出ていて可憐だな、とか、デレているアンドリューはもう既に末期だ。
――彼女を妻に出来なかったら革命を起こすだろう・・・
「仲良しになった、って感じでもないしなぁ」
「ウ~ン。ソレがねヒューイ曰く『査定が終わった』んですって」
「査定? って、え~っと馬とかを買い取りする時の査定の事?」
「多分そうだと思うわよ。ヒューイったらフロイライン王女を国に連れて帰るんじゃないかしら・・・」
「えッ? それって不味くないか?」
「・・・判らないわ。一度お義兄様に報告しなくちゃいけないけど、何が気にいったのか分かんないし、王女の方も今迄と違ってやたら大人しいでしょう?」
「そう云えばこっちに突撃して来なかったね」
「うん。ヒューイにガッチリ腕を取られてたからねぇ・・・」
2人は黙って、離れた席に座るヒューイと王女をちらりと見た――
×××
「あ、離宮には彼女と一緒に帰るから、先に帰っといて」
昼食を挟みHRも終わり、下校時刻になるとヒューイがいつもの呑気な口調でオフィーリアに話しかけてきた。
彼女自身は何もすることがないのでカフェでボーっとヒューイを待っていたのだが、間諜が報告を度々持って来るので意外にリラックスとは程遠い時間をすごした後だった為、その申し出に怒るようなことは無かったのだが流石に首を捻った。
「どうやって?」
「西の離宮用の馬車に一緒に乗るよ? どうせアンディのトコの馬車じゃん」
まぁ、確かにアバルティーダ城のお抱えの馬車と御者である。
最終的には城に戻るから一緒か~、と思いながらふとヒューイの後ろにいるフロイライン王女に目が行った。
何故か表情が抜け落ちている気がする・・・
「じゃあ、アンディがもうすぐ来る予定だから私達は先に帰るわ」
とオフィーリアが言うとヒューイは満面の笑みで。
フロイライン王女は何故か死んだ魚の様な表情で頷いた。
×××
「帝国は特殊なの。伴侶は自分の足で探して連れて帰るのよ」
「へえ凄いね」
「うん。元々先祖が遊牧民で騎馬民族だから平気で他国から伴侶を連れ帰る様な所があるの」
「へ・・・え」
「私のお祖母様も昔、公爵子息だったお祖父様を見初めて連れて帰ろうとしたんだけど勝負に負けてこの国に嫁いだらしいわ」
「・・・公爵子息を拉致しようとしたって事?」
「そう。でも跡継ぎだから困るって言ったら負けた方が勝った方に従うことにしたらしいわ」
「・・・」
「多分何かヒューイが気に入るモノがフロイライン嬢にあったんでしょうねぇ。蓼食う虫も好きずきって言うし・・・黙ってれば美少女だし。見た目は好みだったみたいよ?」
「まって、あのアレが次期皇帝妃になるって事?」
オフィーリアがウ~ンと考えてから
「分からないわ。あそこ一夫多妻制だから。他の妃候補に勝てたらなれるかもね」
「勝てたら・・・礼儀作法?」
「ううん、1番は馬術、次に剣技と体術が重んじられるわ。礼儀作法は順位が低いわね。でも正妃も側妃も関係なく、選ばれたら外交があるからギッチギチに詰め込まれて完璧に仕上げてくれるから大丈夫なのよ。だから妃の出自は問わないのよねあの国」
と、あっさり答えたオフィーリアに、絶対に大丈夫じゃないと思ったアンドリュー王子は常識人である。
多分。
侯爵家の馬車は呑気に、強面騎馬隊にガッチリ守られ学園を後にした・・・
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