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でも、僕は
「すいません、コーヒーのおかわりと、カフェラテひとつお願いします」
「はい、かしこまりました」
そばを通りがかったスタッフに追加の注文をする。柔らかな声で応えると、すぐに離れていった。
四人がけの席はまた俺と結月のふたりになる。
「疲れてるのに、時間とらせて悪い。来てくれてありがとな」
「いえ、トキオさんこそ忙しいのに……」
仕切りで半個室になっている席。向かい側の結月は緊張した面持ちで座っていた。
俺も口の中が乾いて冷えた水を飲む。意味もなくテーブルに視線をさ迷わせた。
「……いつもコーヒーを頼むんですか?」
「ん? あぁ、そうだな。毎回コーヒーにしてるかもしれない」
「だから日によってはトキオさんからコーヒーの匂いがするんですね」
眉を下げて笑う結月。いつもは待ち望んでいる笑顔なのに、今は申し訳なく思った。俺が呼び出しておいて、気を使わせてしまった。
もう一度水を含み喉を鳴らす。背筋を伸ばして結月を見た。
「好きだ、結月」
「え……?」
予想外だったのだろう。結月はぽかんと口を開けて固まった。
こんな時に告白なんてずるいし、気持ち悪いと思われたって仕方ない。これ以上結月の心を乱さないよう、俺は必死に言葉を選んだ。
「こんなタイミングで悪い。気持ちを伝えたのは俺のわがままだ。それとこれも俺のわがままでしかないけど、結月の問題に関わっても許されるような関係になりたい。結月が笑って過ごせる日々を俺も一緒に望みたい。だから伝えさせてもらった」
「トキオさん……」
俺の言葉を聞いて少しずつ実感が湧いてきたのか、結月は困惑した表情を見せた。
結月も俺と同じように言葉を探しているのがわかる。テーブルの上に置いてある手がぎゅっと丸められた。
「迷惑ならきっぱり断ってくれ。結月に会いに来るのもやめるから」
「っ……トキオさんの気持ちは嬉しいです。トキオさんに会えなくなるのも嫌です。でも、僕は……」
そんなことを言われたら期待してしまう。しかし結月は自分の気持ちを口に出すことに躊躇しているみたいだった。
視線が泳ぎ、さらに強く手が握られる。口を開いては声を発さずに閉じる結月。
俺は今までに何度か考えたことを声に出してみた。
「結月、本当はΩなんじゃないか?」
「えっ……」
視線を上げた結月は、信じられないという顔をする。その反応を見て、俺の予想は当たっていたのだと確信した。
「ひと月に数日まとめて休みをとるし、いつも首を隠してるから、もしかしたらと思ったんだ」
「……前から、気づかれていたんですね」
「悪い、こんな個人的なこと……」
個人的なことに踏み込むのは申し訳ない。けど、俺の気持ちを知って戸惑う要因のひとつがΩであることなら、察しているといま伝えておかなくてはと思った。
「トキオさんの言う通り、僕はΩです」
首元のセーターに指がかかり、引っ張られる。セーターに隠されていた黒いチョーカーが見えた。
「お店でΩだと知られたら危険かもしれないと、店長がβと偽るよう提案してくれたんです」
「そうだったのか……」
Ωである結月とαの俺。この告白は、軽いものでは済まされない。でも俺はきっと結月がβでもαでも、同じように告白していただろうという強い確信がある。
結月が獣人だから好きなわけでも、Ωだから好きなわけでもない。
「αの俺は怖いかもしれない。でも好きなんだ。俺がαだからっていう理由で結月を諦めることはできなかったんだ」
「トキオさん……」
結月の瞳は潤んでいた。大きな瞳が揺らぐ。我慢しているのか涙が零れることはなかった。
「ありがとうございます……僕も、トキオさんの気持ちに応えたい。僕もトキオさんのことが好きです」
期待はしていたがいざ望んでいた言葉を聞くと、一瞬思考が停止した。
結月は俺のことが好き。俺たちは両思い。
胸にじわじわと喜び、あたたかな幸せが広がっていく。
抱きしめたい衝動を抑え込んだ俺の喉も熱くなっていた。
「嬉しい。すげぇ嬉しいよ。告白したばっかで気が早いかもしれないけど、俺は結月と恋人として暮らしたいと思ってる」
「恋人として……」
獣人と人間の間には愛玩文化がある。愛玩目的で獣人と一緒に住む人間もいるし、逆に、愛玩目的で人間と住む獣人もいる。
俺は結月と恋人として一緒に暮らしたかった。
「嬉しいです……一緒に暮らせたら、ずっとトキオさんといられるんですね」
幸せそうに笑う結月に、俺は胸を掻きむしりたくなる。こんなにも愛しい結月が俺と同じ気持ちでいる。一緒に暮らすことに嬉しいと言ってくれる。
思わずテーブルの上で手を伸ばせば、躊躇いがちに指先が触れる。ゆっくり絡み合う指をしっかりと握った。
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