夏が去る

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 ぼくは走る。  西へ西へ。  世界には時差という物があるらしく、西へ行けば少しだけ昔に戻れるらしい。    だから走る。  昔に戻り続ければ、きっと夏休みは終わらない。  勉強も学校もない、自由な時間は終わらないんだ。   「痛っ!?」    周りを見ずに走りすぎたせいか、ぼくは石に躓いて転んでしまった。  膝をすりむき、血が流れ出る。  アスファルトに、赤い水滴が落ちる。    このまま走り続けたら、血は止まらないけど、夏休みは終わらない。  家に戻れば、血は止まるだろうが、夏休みは終わってしまう。    ポタりポタりと落ちる血の音が、時計の秒針のように訴えかけてくる。  もう、時間がないぞ、と。  ぼくは頭をぐしゃぐしゃに掻きむしった後、太陽に指差して叫んだ。   「今年は!! ぼくの負けにしておいてやるよ!!」    このまま血が流れれば、死んでしまうかもしれない。  だからぼくは、生きることを選んだ。  今年勝てなくても、来年勝てばいいのだから。   「覚えておけよ!!」    家向って歩き始めるぼくの背に、太陽がじりじりと熱を浴びせてくる。  今年も俺の勝ちだなって、笑っている気がした。
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