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「手紙?」
魔女も青年も、揃って首を傾げた。
「お兄ちゃんが、遠くに行ってしまって。でも手紙をくれるって言ったんです。お兄ちゃんは、村で代書屋をやっていて、村の皆の様子を代表してちゃんと伝えるって……私からも手紙を送ったけど、返事もなくて……」
「『遠く』というのは、どこかに出稼ぎに?」
魔女が尋ねると、少女は首を横に振った。
「他のおじさんたちも一緒に、出かけてくるって」
やはり、少女の兄も例に漏れていなかった。この国で起こった戦争のための徴兵に駆り出されたのだ。愛する兄が命の危機に晒されているとは言えず、ぼかした言い方をしたのだろう。
そして戦地に赴いているなら、返事がなかなか返ってこないことも頷ける。
「だが、手紙を『届けたい』と言ったな。返事が欲しいのではないのかい?」
「欲しいです。でも何か事情があるのかも知れないし。せめて、ちゃんと手紙が届いて、読んでくれたのかだけでも知りたくて」
ふむ、と魔女は再び考え込んでいた。
郵便馬車はこの村にも来る。月に数度だったものが、開戦に伴い回数が減っている上に、道中何が起こるかわからない。なにより、届いたか否かの報告義務などないのだ。
どうしても手紙を届けたい少女にとっては、不安が残るだろう。
「よし、わかった。明日、またここに来なさい。手紙を持って、な」
「は、はい!」
少女は顔を綻ばせて、大きくお辞儀をして、走って行った。嬉々としたその後ろ姿を見て、青年は何故かため息をついた。
「魔女様……大丈夫なんですか?」
「何がだ?」
「色々です。どうやって手紙を追うんです?」
「それは難しくない。わかるだろう」
「……では、届いた先でのことを、本当に伝えても大丈夫なんですか?」
おそらく、少女の兄が向かった先は戦地。そこで兄がどう暮らしているのか、いや、果たして本当に受け取れるのか……。
青年は険しい面持ちで魔女を見つめた。魔女は青年の視線を受け止め、数度瞬きしてから、呟く。
「届けてみなければ、わからないさ」
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