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翌日は、雲一つない快晴だった。手紙を携えてやってくる少女の姿を、昇って間もない太陽が照らし出していた。
畑の水やりと草むしりを終えて、掃除に取りかかろうとしていた青年が、少女を出迎えた。
「おはよう」
「おはようございます! 手紙を持ってきました!」
少女の手には、手紙が二通握られている。一通は少女が書いたものだ。もう一通は、もう少し筆圧の強い、整った文字だった。
「お兄ちゃんの手紙も見せてって、魔女様が言ってたから」
「そう」
どういうつもりなのか図りかねたまま、青年は家の中に入った。続いてドアをくぐった少女は、仰天する。
「ど、泥棒が入ったんですか?」
驚くのも無理はない。昨日少女が整理してピカピカにした家の中が、一晩でそれはもう荒れに荒れていたのだから。
「ごめんよ、せっかくキレイにしてくれたのに。でも魔女様が何かすると、こうなってしまうんだ」
魔女は、あれから夜通しで机に向かっていた。そうなると、片付けるという概念など遙か彼方に追いやってしまう。
起き出してきた青年は、もはやこの惨状に驚くことはなかった。魔女が起きる前に足の踏み場を確保すればひとまずいいだろうという認識なのだ。
とはいえ、今はこうして少女が訪問してきた。優先順位は変わったのだ。
「魔女様、起きて下さい! お客様ですよ」
「……客?」
布団の中でもぞもぞ動く様はなんだか芋虫のようだ。だが手慣れた青年は、容赦なく布団を剥ぎ取った。
「……今日はぐうたらしてたんじゃないのに……朝方まで調べ事をだな……」
「こんな所に来てくれる方なんて滅多にいないんですから、お客様が優先に決まってるでしょう。ほら、起きた起きた!」
青年にガミガミ言われて、魔女はようやくずるずるとベッドから這い出してきた。まだあくびをしている。
そして重い身体を引きずるように歩いてきて、ようやく少女の姿を視界に捉えたらしい。
ぼんやりした眼のままだが、にっこり笑った。
「やあ、来たな」
「は、はい……」
「魔女様、着替えて。君もテーブルにかけて。すぐに朝食にするから」
青年の声ときびきびした動きは、有無を言わさぬ迫力があった。すごすごと従う魔女に倣い、少女もおずおずと椅子にかけたのだった。
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