魔女様と生け贄くん~風追う翼~

5/8
前へ
/8ページ
次へ
 畑で穫れた野菜がたっぷり入ったスープとパンを食べて、三人は家の外に出た。何が起こるのかわかっておらずきょろきょろする少女の元に、青年は一羽の鳥を連れてきた。翼を広げれば青年の顔よりも大きい立派な鳥が、青年の方に優雅にとまっている。 「昨日、この生け贄くんが捕まえてきた鳥だ。早速、使役しているようだな」 「使役?」 「魔力で、僕の言うことをきくようにしているんだよ」  確かに、鳥は昨日捕まえてきたばかりだという割には青年によく懐いている。  大きな鳥は、青年の肩から腕に移り、青年の指示を待っている。じっとしている鳥の足に、魔女は、少女から受け取った手紙を結わえ付けた。 「魔女様、もしかしてこの鳥が……?」 「ああ、君の兄のもとへ手紙を運んでくれる」  少女は怪訝な表情を隠しきれなかった。伝書鳩などは聞いたことはあるが、よく訓練された鳥だと聞いている。昨日捕まえたばかりの鳥に、会ったこともない少女の兄への手紙を託しても大丈夫なのものか。  そんな不安を拭おうとするように、今度は青年がもう一通の手紙を取り出し、鳥によく見せた。 「君のお兄さんの魔力を覚えさせる。微細な魔力でも、こいつは敏感に嗅ぎ分けられるから、間違えずにお兄さんの元まで行けるよ」  鳥は「任せろ」と言わんばかりに一声啼くと、大きな翼を広げて飛び上がった。  羽ばたきが風を起こし、鳥の身体は高く空へと舞い上がる。それと共に、鳥の姿はどんどん小さくなっていく。  少女がかろうじてその姿を目で追っていると、魔女がぽんと肩を叩いた。 「さて、追おうか」  何を、と少女が問い返す前に、魔女は少女の両目を柔らかな掌で覆った。一瞬、驚いた少女だったが、すぐにその温もりに身を任せた。  掌の温度以外の何かが、少女の目を温かく包み込んでいく。塞がれて真っ暗だった視界が、明るく広がっていく。  気付くとそこは、青かった。真っ青で、時々白い雲が混ざって、だけど何にも縛られない只々広い自由な場所だった。 「これって……」 「空だ」  ふいに耳元に降ってきた声に、少女は身を固くした。だが、目の前の青い世界は何も変わることなく少女を包んでいる。  声は……おそらく魔女のもので、小さく笑っていた。 「驚いたかい? 今、君の目の前に広がるのは空だ。それを見ているのは、さっき飛び立ったあの鳥だ」 「鳥?」 「そう。あの鳥に見えている世界を、君にも見せているんだ」  言われてみれば、確かに飛んでいるような感覚だ。風を切って、遙か遠くを目指して羽ばたいている。 「どうだい? ”空を飛ぶ”心地は?」 「とっても……気持ちいいです」 「そうだろう」  美味しいおやつを共有できたような、そんな声で魔女は笑った。 「では行こうか。君の兄の元へ。空を駆けて」
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加