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魔女とは、それきりになってしまった。
少女は村に戻り、大人達を説得して回った。この村に戦火が及ぶ、と。
はじめは子どもの言うことと半信半疑だった村人達も、魔女の名を出せば目の色が変わった。これまで頼ったことはなくとも、魔女の力の恐ろしさと強大さは誰もが知っていた。
その魔女が逃げろと命じたのだから、きっと本当に違いない。
掌を返したように逃げる準備を始めた村人達を見て、少女は魔女という存在がどれほど偉大なのか、理解した。
同時に、自分はとても恐れ多い事をしていたのではないかとも思った。
そんな恐れ多い人に、これほどの恩を受けたにもかかわらず、少女は村から離れるほかなかった。
お礼をちゃんと言えなかった。それが申し訳なく、そして心残りだった。
もう何ヶ月も経ったが、魔女はまだ、あの森にいるのだろうか。いや、そんなはずはない。だって彼女が逃げろと言ったのだから。わざわざ危険な場所に留まるわけがない。
それでも、と少女は思っていた。それでもいつか、またあの森で会って、あの時のお礼を言って、できればまた空を見せてほしい。そのためのお掃除なら、いくらでもしようと。
こうして余所の街に村人全員が受け入れてもらって、生き延びることができたのだ。生きてさえいれば、機会はある。
いや、追うことができる。
少女はあれ以来、毎日空を見て、そう思っていた。
そうして、空を見続けていたある日、あの時に追い求めていた姿と出会うことが出来た。
「お兄ちゃん……!」
「ああ、帰ってきたよ」
互いに目一杯の力で抱きしめ合った。兄は別れたときよりも痩せたようだった。それでも痛いほどの力で、少女の身体を包み込んだ。もう二度と離すまいというように。
「ごめんな、手紙をくれたのに返事を返せなくて。心配したろう」
「手紙……受け取ってくれたんだね」
「ああ、この鳥のおかげだ」
そう言うと、兄は荷物に提げていた鳥かごを見せた。
そこにいたのは立派な鳥だ。魔女の力を通じて自分に大空を見せてくれた、あの鳥だ。
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