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「戦場で、この鳥が空から落ちてきた。流れ矢に当たってて可哀想で……無我夢中でこいつを連れて逃げたよ。そしたら、お前からの手紙を足にくくりつけてたじゃないか。こんな偶然、あるんだな」
「そうなの……」
少女が見たのは、鳥が落下し、そこから見た混乱模様だけだった。そこに兄がいたとは、夢にも思わなかった。
「この鳥がお前の手紙を届けてくれたおかげで、生きる希望が湧いた。だから手当して、逃げるときもずっと連れてたんだ。そしたら、なんだか不思議な人たちに会ってさ」
「不思議な……?」
尋ね返したが、少女には不思議とその答えがわかっている気がした。
「黒髪のすっごくキレイな女の人と、その人に従ってる男の人だ。行軍中にはぐれたちょっとの間に会っただけなんだけど、この鳥のことをすごく可愛がっていたな」
「黒髪の、女の人……従ってる男の人……」
やっぱり、と少女は思った。鳥を可愛がっていることからも、明らかだ。
だが、それなら何故鳥を兄に預けたままだったのだろう。あの青年の鳥なのだから引き取るものと思っていた。
「男の人の方が、お前からの手紙をじーっと鳥に見せるんだ。覚えさせるみたいに。で、女の人は言い聞かせるみたいに言うんだ」
「なんて?」
少女の問いに、兄は答えた。
『この手紙を出した子の元へ、連れて行ってあげるんだ。必ずだよ。お前にしか、できないことだ』
少女は、胸の奥から湧き起こる感情を抑えきれず、思わず鳥を抱きしめた。鳥もまた、心地よさそうにされるがまま抱きしめられている。
「ありがとう……本当に、ありがとう」
少女のお礼に答えるように、鳥は一声啼いた。どこか、誇らしげだ。
少女は鳥の姿をしげしげと見つめた。どうやら、羽根に負ったという傷は治っているようだ。
「ねぇ鳥さん。また、飛んでくれる?」
「この鳥、放すのか?」
少女は首を横に振った。
「返すの。元の主人のもとに」
「主人て……」
あの人達は、今頃どこにいるだろうか。あの森にいるだろうか。それとも遠くに行ってしまっただろうか。
いずれにせよ、この鳥ならあの二人の元に帰れるはずだ。そして、少女の心に残っていた最後の気持ちも届けてくれるだろう。
翌朝、少女はあの時見た朝焼けの空へ、鳥を放した。その足には、手紙が結わえ付けてあった。少女と、少女の兄の、心からの感謝の言葉を記した手紙だ。
鳥は、別れの挨拶とばかりに一声啼くと、迷いなく飛び立ち、いずこかの空へと羽ばたいていった。
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