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「あのぅ……何を……書いて……いる……ですか?」
「……動いちゃだめ」
怒られ……たぁ……なんでぇ。
レイはこの世の理不尽を感じていた。が、理不尽に対して怒る気力もなかった。
「あなた、名前は」
「レイ……グラッド」
どれくらい時間が経ったろうか。
とんがり帽子は満足げにうなずくと、ノートを見せた。
そこには、白目をむいた変顔の少年が写実的に、若干の誇張を加えて描かれていた。
タイトルらしきものがあった――
「――レイ……グラッドの……冒険の……終わり……」
レイ=グラッドは言葉にして息が止まった。たった一人で魔物の群れに囲まれて絶体絶命な状況でも、護衛対象からとんずらされても、助けた村娘に誘惑されたかと思えば……いきなり背後から殴られて気絶し、そのまま邪神の生贄にされかけても――泣かなかったのに。
「あぁぁ……うぁぁ……ああぁぁ……」
今度ばかりは泣いた。
こんなのってない……死にたい……死にたくない……死にたくないよ……。
「おやすみなさい、レイ=グラッド」
優しい女の人の声がした。甘き死があるとすれば、こんな人に抱かれて死ぬことだろうか。でもこの声、どこかで――
少年は目に力を入れることをやめる瞬間、その人の顔をとんがり帽子の下に見た気がした。
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