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少年はまどろみの中で声を聞いた。
「レイ=グラッド――」
ああ、またあの優しい声だ。やはり、僕は死の淵にいるんだ。
もうすぐ川のせせらぎの音が聞こえ始め、死んだ父さん、母さん達が僕を迎えてくれるはずだ。
「――の冒険の終わり」
なんだか死んではいけないような気がしてきた。
渾身の力――おぞましいオークを袈裟切りした時の力よりも大きな力を振り絞り、レイ=グラッドは復活した。
ベッドを拳で叩きつける勢いで起き上がった少年を――女はベッドに寄り掛かったまま見上げた。
「元気だね。おはよう」
「うぁ……おはよう、ございます」
見知らぬ女の人がいた。
少年は驚いた――とてもきれいな瞳だった。そのさらさらとした赤い髪が、太ももに触れてこそばゆい。
「あの――」
少年は部屋を見渡して状況を探った。簡素なつくりのどこかの宿……壁にかかった掃除用の大きな箒、食べかけの粥が残った皿……お腹に感じるかすかな幸福、看病明けに見える赤い髪の女の人……白い服を着ている。
おおよその状況がつかめた少年は、彼女のぼーっとした上目遣いに照れながら……この世の奇跡に感謝した。
「ありがとうございます……助けていただいて」
誰かを助けるのに、理由なんていらなかったんだ。
この人が証拠さ!
「どういたしまして、レイ=グラッドさん」
「……どうして、僕の名前を?」
女は笑った。レイ=グラッドはその笑顔に思わず顔をそむけた。顔が熱くなるのを感じた。そして、もう一度その笑顔をのぞこうとすると、そこには先ほどの女性はおらず、黒装束の――魔女がいた。
魔女は、妖しい手に何かを持っている――
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