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大陸最南東端のその町は、かつて疫病が流行り、滅びの危機にあった。疫病を治すための薬は、死の山と呼ばれるドラゴンの巣窟に生える薬草を取りに行く必要があったが、そんなことをしてくれる人間など存在するはずもなかった。
しかし、たった一人の冒険者がその危機を救った。
その冒険者は名前も教えず、見返りも求めなかった。
そして今、名もなき冒険者が再びその町に帰ってきた。
「勇者様だっ!!」
「勇者様が帰ってきたぞーっ!!」
少年は人々の歓声に戸惑っていた。
人知れず人助けをすることが多かったせいか、こういったことに慣れていなかった。
それに、違和感もあった。
「あの……レイ=グラッドって、ご存じですか」
この質問を受けた人々はきょとんとした。
「何をおっしゃいますか。あなた様のことでしょう?」
「そうだ!お顔を拝見すれば一目瞭然、私たちを助けてくれた勇者様だ!」
「わたしもお礼を言えないまま行ってしまわれたので、いつかこうして感謝を述べようと、ずっと心待ちにしておりました」
「どうして、僕がレイ=グラッドだと分かるのですか?……変顔はしていませんが」
「変顔?」
「なんのことかしら?」
少年はさらに戸惑った。
よく分からないまま町を案内されると、その理由が分かった。
町の至る所に、彼の似顔絵が飾られていたのだ。
その似顔絵に、見覚えのある字でタイトルが書かれていた――
「――レイ=グラッドの冒険の終わり」
安らかな……変顔ではない寝顔の自分がそこにはあった。
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