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「この手で取り上げた可愛いやや子、殺せるわけなどないじゃないか。それに……」
山女は続けた。
「ここで死んだ私のお腹にも、やや子がいたのさ」
「山女でも、人殺しでも、ばば様は、ばば様です。その魂を救いたくて、山を下りて仏門に入り、修行しました。どうか私と一緒に、罪を償ってください」
「この罪はお前には関りがないことだ。こうなったら仕方がない」
山女はそう言うと、立ち上がりすたすたと外に出て行った。そして井戸の前に立った。
すると、井戸の中からたくさんの手が伸びて来て、山女を捕らえて井戸の中に引きずり込もうとした。それは、ここで無念の死を遂げたたくさんの男の手だったのかもしれない。
「待たれよ」
あとから外に出てきた良太、いや良心がそう叫ぶと、無数の手の動きが止まった。
良心はお経を唱えだした。
すると山女は元の老婆の姿に戻り、そして手を合わせるとその姿のまま石へと変わった。
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