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祖母に言われて、少年は茶屋の裏にある小さな家に女を案内した。
家の手前の井戸で女が足を濯ごうとしたが、「お姉さん、水が濁っているから、井戸は使えないよ」と少年は言い、湧き水を桶に汲んできて女の元に運んだ。
草鞋と足袋を脱いだ女の足は白く美しく、桶の水を使う様子は艶めかしかった。
女は家に上がると、囲炉裏の傍に座った。少年は女に、母親を亡くして、今は祖母と二人で茶屋をやっていると説明した。
「こんなものしかないけれど」
祖母が雑炊を作り、夕餉に出した。
「体が温まります」
女は喜んで食べると、ぽつりぽつりと身の上話を始めた。
東の町の商家に奉公に上がり真面目に働いていたが、旦那に手籠めにされそうになりそれを拒んで逃げ出したこと。その商家がやくざ者と関りがあったので、質の悪い奴らに追われているのだという。
「女一人で行く当てはあるのかい?」
祖母が聞く。
「はい。峠を越えた西の町に、昔、母が奉公していたお店があります。そこを訪ねてみようと思います」
「それなら今宵はゆっくりお休みなさい。昼間でも女一人の山越えは大変だからね」
その夜、良太は自分の布団を女に譲り、祖母と一緒の布団にくるまった。
隣で眠っている女の寝息に、良太はなかなか寝付けなかった。
とはいえ子供のこと、いつの間にかぐっすり眠って朝を迎えると、既に女はいなかった。
「ばば様、あの女の人は?」
「日が昇る前に出て行ったよ」
良太の問いに、朝餉を用意しながら祖母が答えた。
その後、追っ手は来なかった。女は無事に逃げおおせたのだった。
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