2. 追う男

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 七歳で料理茶屋に奉公して板前修業を重ね、この度独立を許された。  店を持つ算段をしようと(やもめ)暮らしの父の元に戻ると、父はいつの間にか飯盛り女を家に入れ、夫婦同然の暮らしをしていた。  ある日、店の物件を見に行って家に戻ると、父は包丁で刺されて絶命しており、男が店を持つ時のためにと父に預けていた虎の子の金子がなくなっていた。  男は飯盛り女の仕業と睨み、女を追ってここまで来たという。 「今頃、親父の亡骸が見つかって、あっしが下手人と疑われているだろうが、それはもうしかたがねえ。あの女のせいで店を持つ話はご破算になり、あっしはお尋ね者だ。なんとか女を追いかけとっ捕まえて、金子だけでも奪い返したいんでさ」  男の身の上に、祖母はいたく同情した。 「とにかく今日はゆっくり休んで、明日の山越えに備えなされ」  祖母はそう言って、男を早くに休ませた。  明け方、祖母が板戸を開けて外から戻って来る気配に、少年は目が覚めた。 「ばば様?」 「ああ、あの若いもんがもうここを立つというので、見送っていたのさ。今日こそ女をとっ捕まえると意気込んで、山道を駆け上がって行ったよ」  しかし少年は、祖母が男の巾着を後ろ手に隠したのを見逃さなかった。
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