3. 若い僧侶

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3. 若い僧侶

 それから十数年の時が経った。  相変わらず、茶屋は早朝から夕暮れ時まで、毎日店を開けていた。  ある時、一人の若い僧が山道を登ってきた。 「おばあさん、お茶をいただけますか」  その僧は茶屋の老婆に声をかけると、縁台に座った。 「これはお坊様、ご苦労なことです」  老婆はお茶を僧の横に置く。 「これから峠を越えなさるのですか?」 「はい。師の命で、ある者を追っているのです」  若い僧は十歳の頃から仏門に入り修行をしてきたが、兄弟子が罪を犯して出奔(しゅっぽん)したので、師に命じられて追っているのだという。 「しかし、もう日が暮れます。お一人での山越え、夜道は危のうございます。粗末な家ですが、雨風は凌げます。もしよかったらうちへお泊りになり、朝お立ちになってはいかがでしょう。山向こうの町まで、お若いあなた様なら一刻もかかりますまい」  親切な老婆の申し出に若い僧は合掌して感謝をし、一夜の宿を借りることになった。  若い僧は老婆に案内されて店の裏の家に回った。 「良かったら、この井戸で足をお濯ぎなさいませ」  老婆に言われたが、僧は「いえ、足は先ほど川で濯いでまいりました」と、井戸水を使うのを遠慮した。 ※一刻……約二時間  
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