3. 若い僧侶

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 その夜、囲炉裏端に座った僧は、老婆が作った雑炊でもてなされた。  若い僧は名前を良心(りょうしん)と名乗った。 「この峠、いろいろな噂があるようですね」  良心は声を(ひそ)めて尋ねた。 「はい」  老婆は苦笑した。僧侶とはいえ、若い男だ。噂話が気になるのだろう。 「山の向こうの隣町へ行くには、麓のところから山をぐるりと周る楽な道がございます。時間は少しかかりますがね。ですから、この峠越えをするのは、余程急いでいるか、わけあり者に限られます」 「わけありの者とは?」 「騒ぎを起こして追われる者、追いかける者、事情はさまざまでございます。峠の辺りで獣道に入れば、手形がなくても隣国に抜けられますので、抜け道に使う者もおります」 「そんな事情のある人々を、おばあさんはずっと見てこられたのすね」 「私はこうして一夜の宿をお貸しするくらいで、何もできやしませんがね」
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