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その夜、囲炉裏端に座った僧は、老婆が作った雑炊でもてなされた。
若い僧は名前を良心と名乗った。
「この峠、いろいろな噂があるようですね」
良心は声を顰めて尋ねた。
「はい」
老婆は苦笑した。僧侶とはいえ、若い男だ。噂話が気になるのだろう。
「山の向こうの隣町へ行くには、麓のところから山をぐるりと周る楽な道がございます。時間は少しかかりますがね。ですから、この峠越えをするのは、余程急いでいるか、わけあり者に限られます」
「わけありの者とは?」
「騒ぎを起こして追われる者、追いかける者、事情はさまざまでございます。峠の辺りで獣道に入れば、手形がなくても隣国に抜けられますので、抜け道に使う者もおります」
「そんな事情のある人々を、おばあさんはずっと見てこられたのすね」
「私はこうして一夜の宿をお貸しするくらいで、何もできやしませんがね」
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