第7話

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「待ってたぞ、花宮」  柱に背を預けていた向坂くんが身を起こし、私の方へ歩み寄ってくる。  獲物を見つけたみたいに爛々(らんらん)と光る双眸が恐ろしくて足がすくんだ。 「どうして……」 「何が?」  思わず言葉がこぼれ、慌てて口を噤む。  どうもこうもない。  向坂くんにも記憶があるのだから、毎回行動が違うのは当たり前だ。  何度も私を殺せずに“今日”を終えている現状では、同じ結末を避けるためにこうして積極的になりもするだろう。 「な、何でもない。早いんだね、向坂くん」  無意味だと分かっていながらも、私は繕うようにぎこちなく笑った。  少しでも風向きが変わらないか、藁にも縋る思いだった。 「まぁな。こうでもしねぇと、お前に会えねぇから」  私は唇の端をきつく結んだ。  惑わされちゃ駄目だ。  彼の言葉に他意なんてない。  私を殺すことだけが、彼の目的で原動力なのだから。 「何で上に来なくなったんだよ? ……記憶が理由じゃねぇなら、繰り返すほどその日も変化すんのか?」  尋ねているというよりは、ほとんど独り言のように、向坂くんは考えを口にした。  私がすべてを覚えている可能性は、彼の中では今のところ低いのかもしれない。  そしてそう信じているからこそ、大胆にも憶測を口に出来る。 (それとも……)  何を知ったって殺してしまえばいい、と考えているのだろうか?  私には何も出来ないと思っているの? 「なぁ、何その態度」  向坂くんが一歩距離を詰める。  私は後ずさることさえ出来ないまま、怯んだようにその目を見返した。 「何がそんなに怖ぇんだよ。ただ話してるだけだろ」 「向坂くん……」 「前みたいに笑えよ。今やお前の唯一の“友だち”だろ、俺」  淡々と追い詰めてくるような彼の態度は、私の気を挫くのに充分だった。  話すほど彼という人物像が崩れていく。  信じたいのに、その気持ちを嘲笑うかのような展開ばかりだから。  何でこんなふうになっちゃったの?  優しい向坂くんを返して……。  無駄だと分かっていても、そう思わずにはいられない。  夢だったらいいのに。  晒されているこの現状が、すべて悪い夢だったら────。
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