未だ見ぬ君へ贈る前日譚

2/9
前へ
/9ページ
次へ
妻と夫の出会いはやはりお見合いだった。 肇は十数回目、方やハルは初めてだったが男に興味はなし。本に夢中だった。 ではなぜこのお見合いが成立したのかというとそれはハルが肇の書く本のファンだったからだ。 ああ、記すのを忘れていたが男は作家だった。 しかも天才といわれる類の今人気の作家。 稼ぎもよく、見目も悪くないこの男。 ではなぜお見合いが破談し続けたのかというと、天才と奇人は紙一重といったものだが、まさに奇人が強いタイプだったのだ。 とにかく物語にあてられる。 自分で書いているのに影響される。 本当に比喩ではなく全身全霊で小説を書いていた。 だからこそ魅力的な物語を紡ぎだせるのだが、それで餓死しかけたり、また物をたらふく買って破産しかけたり…そういった注意点を話すとどの女も顔を引きつらせたものだった。 ただ、ハルは違った。 それを聞き、初めて顔を輝かせたのだ。 見目の悪くない男を見てでもなく、稼ぎを聞いてでもなく。 それから早く肇を誰かに押し付けたい家族が急かすままにとんとん拍子に話が進み、お互いに愛だの恋だのある前にハルの苗字とお揃いになった。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加