未だ見ぬ君へ贈る前日譚

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それから2人での日々はハルが思っているよりも大変なものになった。 なんてたって、肇がミステリーを書きだしたからだ。 ハルは妻の特権で書いた小説を誰よりも早く読ませてもらっていた。 それは珍しく締め切りが終わり素の状態の肇と交渉して得た権利。 ある時、ミステリーを書き始めて一作目を読むと犯人が自室で包丁で人を刺していた場面が現れた。 少し嫌な予感のしたハルは家の台所にしまっている包丁を探すと、ない。 これは…いくらなんでもダメだろう。 多少気性が荒くなったり、逆に根暗になったりならいい。 見てる分には面白いし、本を見れるなら我慢できる。 でも、これはだめだ。フィクションだからミステリーは面白いのだ。 本当に人を刺したら…もう作品が見れなくなってしまう。 慌てて肇の居場所を探すと執筆部屋の方から音がした。 まさかもう…とそろっとふすまを開けるとそこには包丁を振りかざす肇の姿。 その下には人…じゃなくてハルが暇つぶしに作ったかわいらしいお人形だった。 最悪を想定していただけに力が抜ける。 さすがに人殺しをしないだけの理性はあったようだった。 安心と同時に次は、これから外で起こるであろう人形バラバラ遺棄事件をやはり避けなければいけなくなった。
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