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「どうされました?」
「いや、あの…。」
「そういえば最近肇さん落ち着いていますね?どんな物語を書いているんですか?」
「そ、それは見せられない。」
「そ、うなんですか…。」
じっと見つめられる。その目にはありありと疑念、と書かれていた。
少したじろぐとさらにぐっと顔を近づけてきたハル。
「…何か怪しいことをしていませんか?」
「し、してない。」
「いや、怪しいです。…まさか他に好いた女の人が出来たのですか?」
「なんでそうなる!」
「だって、約束したのに見せてくれないなんて。やましい気持ちがあるということでしょう?その人と一緒になりたいとかそういう気持ちを込めた本を書いているのではありませんか?」
「だからなぜそうなるんだ!」
「だって、初めてですもの。肇さんが見せてくれないなんて。」
その不安そうな顔が見てられない。
普段迷惑をかけているからせめて、せめて今ぐらいは望むことをしてやりたいと思ってしまうのだ。
これは出版されてから見せようと思ったがまあいい。
というか、今それが最善だろう。
「…ちょっと待って。」
自室へ行き、告白するうんぬんのところは置き、その前置きの部分の原稿をかき集める。
そして居間に行きおずおずと原稿を差し出す。
「…見ていいのですか?」
「…何か違うところがあったら言ってくれ。」
小説の意見を求めるなんて初めてだからかキョトンとした顔でハルが受けとる。
そして原稿の一文目を見て驚いたようにこちらを見た。
そして何も言わずに読み進んでいく。
かつてこんなに緊張したことがあっただろうか。
賞の発表でもここまで緊張したことはなかったように思う。
耐え切れず下へ下へと視線が下がる。
そしてトン、という机で原稿をそろえる音で上を向くとハルと目が合った。
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