未だ見ぬ君へ贈る前日譚

8/9
前へ
/9ページ
次へ
「結婚してください。 …いや、もうしているが、だいぶ色々飛ばして急いで籍を入れただろう? ちゃんと心から夫婦になりたかったんだ。 僕もハルが好きだよ。 こんな僕と一緒にいてくれるところ、そうやってこう、どうしようもなくどうにかしたくなるその表情も。」 笑い出してしまうほど顔が赤くなっている。 「これ、これ!噂の結婚指輪というものですか?」 「そう。」 「も、もらってもいいんですか?」 「もちろん。」 「あ、ありがとうございます!」 嬉しそうに笑顔を浮かべる彼女にこんなにも感情があふれる。 こんな感情、きっとあてられている僕には感じることができなかった。 自分の指につけては外し、手をかざして眺めている彼女。 「ごめん。寂しくさせたね。」 「いえ。肇さんが仕事をしている後ろ姿を見るのも好きなので。…あ、でも…。」 何かを言おうとして口をつぐむハル。 「どうした?」 「その…。こ、ども…欲しいなって…。」 「こども。」 子供。そうか、子供。 僕はこんなんだからあまり親に向いているとは思えない。 別に家がいい家柄というわけではないし、そもそも兄がいるから跡継ぎなんぞ考えたことはない。 だから漠然と自分は子供をつくらないのだと思っていた。 でも、そんな考えも彼女を目の前にすると変わる。 きっとお互いそんな感情は相手にないと思っていたからか、なんだか世界が開けた気分だ。 そうか、これが恋をしているということ。 相手を愛しているということ。 これはどんな恋愛小説を書いても、あてられていてもこんな感情にならなかった。 これは自分が体験しないと感じえない感情だ。 こんなにも愛おしく感じる彼女との子供はさぞ可愛いと思った。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加