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「うん。子供を作ろう。絶対に可愛いよ。」
少し驚いた顔をして、そしてハルは微笑んだ。
「意外です。男の人って子供とかどうでもいいものだと思っていました。」
「いや。僕はハルの嫌いな典型的な男性ではないからね。」
「ふふ。なるほど。」
目の前の原稿を見る。
「じゃあこれはお蔵入りかな。事実と違ったわけだし。」
「いえ。これはこれでおもしろいです。別に自叙伝なんて事実ばかり書かなくてもいいんです。ここに肇さんが思う私を書いてくれるのならばそれって、私だけの特権でとっても嬉しいんです。」
「…そうか。なら、このままでいこう。
…ああ、でも子供ができるならしばらくミステリーは辞めるか。怖がられる。」
「別に無理なさらなくてもいいですよ?私が奇行は止めますし。連載もあるのでしょう?」
「うーん…。そうだ。連載はミステリーじゃなくて子育てのお話にしよう。」
「それはさすがに…。」
「いや。作家として、子供のために将来残せるものがあるとするならば小説くらいだ。そうと決まればとにかくこの物語を書ききるよ。」
どこか呆れ気に笑うハル。
「では、これは未だ見ぬ君へ贈る前日譚ですね。」
「ああ。それはいいな。」
原稿の一枚目を手繰り寄せて万年筆で冒頭にぴったりな題名を書き加えた。
『未だ見ぬ君へ贈る前日譚』
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