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よかれと思って助けた相手に睨まれていることに頭をかきながらも、月ノ蝶、どこかで聞いたことがあるな、と千草は記憶を辿る。ああ、そうだ。祖母から聞いたのだ。ということは。
「里に伝わる昔語りだよね? 夕凪、そんなの信じてるの?」
「信じてるもなにも、いるのよ」
ぴしゃりと言われて、千草の肩が跳ねた。夕凪は訝しむように千草を見上げる。
「千草、月ノ蝶のこと知ってるの?」
「ばあちゃんが、そういう不思議な昔語りが好きで。詳しいことは覚えてないけど。どんな蝶だっけ?」
夕凪はしばし警戒するように眉をひそめていたが、やがてため息をついた。とても言いたくなさそうに、渋々口を開く。
「月みたいに、淡く黄色に光っている蝶よ」
「蝶が? 光ってるの?」
「羽のところが、ぼんやりと。淡い光だから昼間は見つけにくいけど、暗い木陰に入るとよくわかる」
「黄色の光……、蛍みたいな?」
「ああ、そう、似ているかも。とてもきれいな蝶なんだから」
夕凪はうっとりとした瞳になった。
「山のどこかに、蝶の群れがいるらしいの。それを探してるけど、一羽見つけてもすぐ逃げられて……。今日、あなたが邪魔しなかったら、見つけられたかもしれないのに」
「ご、ごめん。あ、じゃあさ、お詫びに俺も手伝うよ、群れを見つけるの」
そんな蝶がいるなら、自分も見てみたい。それから夕凪に睨まれるのが心苦しく、どうにか機嫌を取ろうと提案した。すこしだけ、夕凪と仲良くなりたいという思いも込めて。
しかし夕凪は思いきり顔を歪めた。
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