4.再会

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 そいつは凜の手が空いたところですかさず呼びつけた。  凜はこちらに気付くと一瞬俺を見て動揺した様子だったが、パタパタと小動物の様にいそいそとやってくる。  その様子をみて、緩んだ顔の御曹司が不意に手を伸ばして凜の腕を掴んで引き寄せた。 「あっ・・・」  そいつの思いがけない行動に不意を打たれて凜はそいつの膝の上にストンと腰を下す形になってしまった。 「すっ・・・すみません!」  慌てて立ち上がろうとするが御曹司は凜の腰に腕を回して離さない。 「ねぇキミ、すごく可愛いね。どう? この後オレに付き合わない?」  もう片方の手で凜の小さな顔を捕らえるとその汚い顔を近づけた。  大きな目を更に大きく見開いて抵抗するが力が足りない。 「おい、やめっ・・・」  俺が止めに入ろうと思ったその時。 「はい、そこまで!」  いつの間にか立ち上がった周が2人の顔の間に使っていたコースターとスッと挟んだ。  水滴で塗れたコースターにキスするハメになったそいつは「うえっ 何すんだよ周!」と凜を離して手の甲で口を拭く。  凜はその隙にすばやく立ち上がって周の後ろに隠れた。  その様子がムカッとくる。 「何すんだはこっちのセリフだ。うちの従業員に何してくれてる?」  周は俺には劣るが兄だけに整った顔をしている。  その端正な顔でじっと見据えると御曹司はうろたえた。 「わ、悪かったな。ははっあんまり可愛いもんだから。周の店はどこも居心地がよくてつい・・・」 「そうか、だよな!」  周はサラッと笑ってそいつをたしなめ、自分の後ろに隠れた凛に「もう行っていいよ」と優しく声をかけた。 「ありがとうございますっ」  凛はぺこっと周に頭を下げて戻っていった。  なんだあいつ。俺にはあんな態度をとっておきながら、周に対しては笑顔を振りまきやがって・・・!  凛は周みたいな気取ったタイプの男が好みなのか?!  あー! クソ!  俺は何を考えてる・・・? 凛の好みなんてどうでもいいだろ。 「豪、飲めよ!」  目の前のグラスにワインを注がれて、ぐいぐい飲み干した。  周りが「うわ! 気持ちのいい飲みっぷりだな!」と囃し立ててきたがそんなことはどうでもいい。俺はこの意味のわからないイライラをなんとかしたいだけだ。 「豪! もっと飲んでけよ!」  いつもはアルコールを勧められてうるさいと思うが、今日はヤケをおこして飲みまくった。  俺はこのモヤモヤする邪念をアルコールの力を借りて振り払いたかった。
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