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頭痛てぇ・・・
完全に飲み過ぎた。
どのくらい眠っていたかはわからないが、そう長い時間ではないはずだ。
「豪、酔さめたの?」
目を覚ました俺に気がついて、周が声をかけてきた。
「ああ・・・相当飲んだ」
最近は俺らしくないことばかりだ。普段の俺はあまり感情的になったりはしない。それなのに追い払おうとしても追い払えない何かになぜか自分は抗おうとしている。
「豪は全然顔に出ないから酔っててもわからないよな」
酔ってる・・・たしかに相応に酔ってると自分でも自覚はある。
「ねえ君新人? 初めて見るなー。大学生?」
まただ。また凛が客に絡まれている。可愛い顔でヘラヘラ愛想振りまくからだろ。
あー、また客に頭を下げてる・・・
今度は何やったんだよ。オーダーミスか? 見てられないな・・・
凛を見ているとイライラする。ひと言文句を言ってやろうと俺は立ち上がり、凛の背後から近づいていく。
「おい——」
俺が声をかけようとしたときだ。
凛が後ろに下がってきて、急に身体を反転させ、勢いよく俺にぶつかってきた。
あっと思ったときには俺も凛もバランスを崩していた。俺は床に尻もちをつき、続けざま顔に冷たい水を思い切り浴びた。
「申し訳ございませんっ!」
髪から滴る水を払って俺が目を開けると凛の顔が目前にあった。転んだ俺の上に凛の身体がのしかかり、俺たちは抱き合うような格好になり・・・
「早くどけ…っ!」
俺の上に乗る凛を睨みつける。これ以上の接触は危険だ。
俺は動悸がひどくなり、妙に身体が熱くなっている。きっとアルコールのせいなのだろうが、うるさく高鳴る心音を凛に聞かれたくない。
別にこいつと触れ合ったことに対してドキドキしている訳じゃない。
そんなことありえないからな。
「ごめんなさいっ!」
凛は慌てて俺から身体を離して、その場でしきりに俺に頭を下げる。
俺も立ち上がるが、髪も顔もスーツまでびしょ濡れで、ポタポタと雫が滴り落ちている。
「どうしよう・・・」
「お前、ちょっと話がある。ついて来い」
「えっ?!」
「絶対に逃げるなよ」
俺はハンカチでぶっかけられた水を拭きながら凛を睨みつける。
「は、は、は、はい……っ」
周囲は「あの店員の子、可哀想」だの「悪気はねぇぞ」などとヤジを飛ばしてくる。
俺は、そんなどうでもいい批判的な目を無視して、凛を無理矢理引っ張っていった。
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