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これは図星だな。
やっぱり親しげな雰囲気で一緒にホテルに向かった男は、そういう関係の男だったということだ。やましいことがなければ視線を逸らすこともないだろう。
あいつには身体を許すくせに、俺はちょっと触れることすら拒絶するのか・・・? どう見てもあいつより俺のほうが男として上なのに。
イライラする。
俺は凛にさらに迫り、凛の顎を左手で持ち、クイッと俺のほうへ向けさせた。
こいつを支配したい。落としてやりたい。そう思った。
「キスさせろ」
俺が得意の誘う視線で凛を見ると、凛の目がパッと開かれた。
そのまま俺は唇を近づけ、凛の唇を奪った。
「・・・んっ…!」
触れるだけのキスじゃ許さない。凛が逃げられないよう頭を両手で抑えつけ、舌で無理矢理凛の唇をこじ開けた。
怯える舌を絡めとり、口内を蹂躙していく。
いつもならゆっくりと相手を犯していくのに、なぜかまったく余裕がなかった。キスのテクニックも忘れ、本能のままに凛を貪った。
早く俺の手に落ちろ。俺が飽きるまでならお前で遊んでやるから。
「……んっ……! はぁっ……」
なぜか凛が苦しそうだ。こいつ、息をしてない・・・?
キスしてて呼吸ができないなんて慣れてないのか?
男と関係を持ってるくせに・・・?
俺が唇を離すと、凛は涙目で、はぁはぁと苦しそうに息をし始めた。よほど苦しかったのか、身体を震わせている。
「・・・いきなり、なんで・・・?」
「お前・・・可愛いな」
涙を浮かべながら俺を上目遣いに見つめる、凛の蕩けた顔に思わず言葉が漏れる。
まさか。俺は男のこいつに欲情してるのか・・・?
そんなはずはない。これは支配欲だ。俺を拒絶するくせに、周には愛想を振りまいたり、年上の男とは平気でホテルに行き、身体を許す。
そんなふざけたこいつにわからせてやりたいと思った。
誰もが俺にひれ伏して、俺のことを崇めて、俺に従う。
俺は俺は人の上に立つ者として、強くなければならない。支配層の人間が弱かったらそんな奴に誰が従う?
俺を蔑ろにすることだけは許せない。
「これでスーツと腕時計の修理費はチャラにしてやる」
俺はそう吐き捨てるように言い、凛に背を向けその場を立ち去った。
会員制ラウンジをあとにして、俺は夜の街を歩いていく。
春だというのに、身体に吹きつける夜風が寒くてイライラした。
俺は最初から凛に金を払わせる気なんてなかった。得意の色目を使ってあいつを落として支配するための体のいい言い訳にしただけだ。
金、権力、性欲。
人を従わせる方法なんていくらでもある。
婚約者のフリをさせていることを理由に、その期間は男と会うなと叱責する方法もあった。
あの男は凛よりもひと回りは年上だったからセフレか金が絡んでいる交際に決まってるだろうが、あいつが恋人だと言うなら妹を理由に脅して別れさせることだってできる。
それなのになぜ俺はこんな短絡的な方法をとった・・・?
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